
キミに言われて、気付いたこと。
キミに伝えられて、思ったこと。
キミの素直な言葉が、私を変えた。
十五.キミのとなり T
あれから数日。すっかり復活した私は、今日も豹面を付けて闇に紛れる。以前と変わったのは、フードの色が黒色になったこと、正式に「舞姫」として暗部に所属したこと、そしてー…。
『これで終わりか?物足りねぇ』
「仕方ないでしょ、我らが総隊長様がこれくらいしか割り当ててくれないんだから」
『あーあ…またどっかのバカ野郎がお前の命狙ってくんねぇかな』
「止めてよ、縁起でもない」
任務のレベルが『裏暗部』に比べて落ちたこと。それにより淀は毎日文句ばかり言ってくる。そしてさらにもう一つー…。
「何だよマイ、また淀の野郎が騒いでんのか?」
「そう。トラからもなんか言ってやって!」
暗部の任務になってから単独任務は一切無く、必ずマンセルを組まされている。全ては総隊長であるナルトの力。そんな今日もトラと安全かつ迅速に暗部の任務を完了させた。
*********
あの日、ナルトの真っ直ぐな言葉に私は驚いた。ずっと《小さな子供》だと思っていたのに、いつの間にか逞しくなっている。自分より年下の弟の成長を目の当たりにして、素直に照れてしまった。初めて『男の子なんだな』と感じたし、自分がどこか『守られる女の子』のように感じてしまい、そのぶっ飛んだ勘違いに更に恥ずかしくなった。淀がいるし、裏暗部で何人もの人を殺めてきておいて『守られる女の子』はないだろう。そんなことを思い頬を赤くする私に、ナルトは「熱上がってんじゃねーか?」と見当違いな心配をしてきて、そこら辺はまだまだ子供だな、と笑った。
でも、いざ暗部の任務が始まるとあまりの過保護っぷりに私はもちろん、トラも三代目も呆れ顔になっていた。
「これ、の任務か?」
「そうだ」
「どう見ても新人レベルじゃな」
「暗部の新人だからってことにしておけ」
「しかもこんなレベルなのにマンセル?私ひとりで行けるよ?」
「文句あんなら行かなくていい」
「「「…」」」
こんな感じで新人でも難なく完了出来るであろうレベルの任務を渡されるのも、もう5回目。鈴城村でのこともあるから私のことが心配なのは分かるし有り難いけど、いくらなんでも過保護すぎだ。過保護を通り越して、最早パワハラだ。私はギュッと強く拳を握ると、今まで堪えていたものが爆発した。
「…もう無理!ナルトのバカ!!」
「あぁ?!」
『、オレも加勢するぞ』
「淀は黙ってて!」
その後総隊長室には、怒りで物を投げまくる私を必死に抑える三代目と、今にもキレそうなタケをひたすら「落ち着け」と宥めるトラの姿があった…。
********
そんなこともあり、私とナルトは再び冷戦中だ。以前はお互い本音を言えないもやもやとした喧嘩だったが、今回は逆の【言い合った喧嘩】ー…言ってしまえば【意地の張り合い】だ。私自身頑固な性格の自覚はあるが、ナルトもなかなか頑固で、一定レベルの以上の任務は絶対に渡さないと譲らない。でもこれでは私が暗部になった意味が全くないと思うので、私も「パワハラだ」「相応の任務を渡せ」「二人を助けたいんだ」と訴え、譲らない。そんな押し問答を繰り返すうち二人の空気は自然と険悪なものとなり、ナルトは我が家に一切寄り付かなくなってしまった。
なのでここ最近は、ナルトと会うのは暗部の任務をもらう数分だけ。しかもトラや他の暗部の人が出払っていて、人伝に渡せない時のみ。面をしてフードを被った『舞姫』としてしか、会うことがなくなってしまった。
こんなはずではなかったのにー…。この狂い始めてしまった日常の歯車が淋しくて、どこか泣きたくなった。
........
.....
...
ナルトと普通に話せなくなって一週間。こんな混乱の中、久しぶりに休暇をもらった。
…違う、これはきっとシカマルや三代目の気遣い。
あの日以来どこか気分の晴れない私を気遣ってから、休暇をくれた。だから今日の夜、ちゃんと心を落ち着けて考えようと思っていた。私が年上として折れるべきなのか、折れないとしてもどこで折り合いを付けるべきなのか…私だって淋しく感じているんだ、人一倍淋しさに敏感なナルトが、この状況に淋しさを感じていないはずがない。
昨晩も簡単な任務だったため、早い時間に任務を終え早めに眠れた。その分朝は早い時間に目覚め、のんびり朝ご飯を準備する。一人分の朝ごはん作りは慣れないし、やっぱり淋しい。ボーッと紅茶を入れていると朝鳥が気持ちよく鳴いているのが耳に入る。するとその声の合間に、コツコツと窓を突く音が聞こえる。目をやると、そこには足に文が結び付けられた忍鳥が、早く読めと足を何度も向けてきていた。文を開けば、そこには【至急受付に来い】の文字。その手は上忍の時、受付で良くお世話になっていた受付係・ショウさんのものだった。今は暗部一本だが、何か緊急の任務が入ったのかもしれないー…紅茶をぐいっと飲み干すと、急いで受付へ向かった。
*********
「ショウさん…これ、ホントに私の?」
急いで瞬身の術で受付に到着するも、その全く緊急性のない内容に固まった。上忍の頃は三歳上で兄貴肌のショウさんと楽しく歓談しながら内容確認していたが、今日は内容が内容だけに、それどころじゃない。
「は?お前の名前、しっかり書いてあんだろうが」
「だってこれ、中忍の…いや、下手したら下忍用の任務内容じゃ…」
「お前の頭ん中はこれくらいが丁度いいんじゃねぇの?」
小憎らしい事を言うショウさんをジト目で見ると、再びその任務詳細に視線を落とす。そして少し考え、目の前で次の任務内容を手渡す準備をしている彼に言った。
「ショウさん…いや、ショウ様っ!今度ご飯奢るから、今日だけ任務変えて!お願いっ!!」
「無理」
「即答?!お願いっ!この通りっ!!」
そう言って両手を合わせて頭を深々と下げる。そんな私をじっと見ていたショウさんは、小さくため息をついて言った。
「無理だって。依頼主見てみろ」
「依頼主ぃ〜〜??」
言われたとおりに依頼主欄を見てみる。するとそこには、思いもしなかった人物の名前が書いてあった。
「!!!」
「な、無理だろ。これで変えたら俺の人生終わったも同然だろーが」
「何考えてんのよ、トラァー!!」
「あの副総隊長を呼び捨てに出来る女は、お前くらいだろうな。わかったらさっさと行ってこいっ!!」
そういってショウさんはまるで野良犬を追い払うかのように、シッシッと私を手で追い払った。受付を追い出されてしまった私は盛大な溜息をこぼすと、仕方なくトボトボと歩き始める。
私の今日の任務地、それは―……
********
「ナルト!また授業サボったなっ!!!」
「オレだけじゃないってばよ、イルカ先生っ!キバとチョウジとシカマルも一緒だったってばよッ!!」
「バカ野郎、オレ達まで売ってんじゃねーよっ!!!」
「ぼくは違うよ、先生。ポテチ無くなっちゃったから買いに行きたかっただけだよ」
「あぁー…めんどくせぇ……」
「サスケくん、私ここわかんないの、教えて!」
「…うるせー」
「はぁ?そんなのもわかんないの、デコリンッ!そんなんでサスケくんに迷惑かけないでよ!」
「なによっいのブタ、邪魔してんじゃないわよっ!」
「二人とも落ち着いて…ね?」
「…はぁ……」
扉の隙間から見える室内のカオスと化している様子に、はそっと扉を閉め、大きなため息を漏らした。が教室についたのは丁度休み時間の間だったらしく、子供たちがざわめきあっている。中でも教室の前方で一番声を張り上げて怒鳴っていたのは、このクラスの担任であるイルカ。彼の前にはナルトとシカマル、二人の誕生日会で知り合ったキバとチョウジが横一列に並んでいて、順に頭を殴られていた。教室の中ほどではやっぱりあの日に知り合ったサクラといのがサスケの取り合いで声を張り上げ、それをヒナタが一生懸命押さえている。もう何と言うか…騒がしい動物園状態。
そう、今日のの任務は中忍でありアカデミーで講師もしているイルカの手伝い。どうやらこの後三限目から夕方にかけて、課外授業として近くの山に薬草取りに出かけるらしい。何も起こらなそうだし影からサポートしようと考えていたのだが、任務要望欄にはっきりと『表だってサポートすること』と書いてあるため、無視することは出来なかった。ナルトと気まずい今日この頃、何故こんな必ず会ってしまうような任務を…は依頼人であるシカマルに軽く恨みを抱く。ここでやっと三限目開始のチャイムが鳴り、イルカが手を叩いてクラスに声を響かせた。は中に入るタイミングが分からず、再び少しだけ扉を開けこっそり覗いている。
「よーし、席に付けー!これから前に説明した薬草取りの実習を行う!」
「「「えー!!」」」
「『えー』じゃないっ!お前ら、春には卒業試験が控えてるんだし、そろそろ真面目に備えろ!それに今日は特別に、上忍の方がサポートに来てくれると聞いていたのだが…」
「「「上忍!?」」」
既には上忍ではないものの、アカデミー生相手に『暗部』というわけにもいかず、シカマルは『上忍』として申請書を出していた。教室内では普段出会うことの出来ない『上忍』という言葉に、生徒たち湧き立つ。しかしそれに反して、その言葉を聞いたナルトは一瞬眉間に皺を寄せる。
―…上忍のサポート?昨日この話をじぃちゃんとしたときはそんな話無かったぞ…?
ちらりと少し席の離れたシカマルを見やる。そして二人にしか分からない術で語りかけた。
(おいシカ。こんな話聞いてたか?名家の護衛なら昨日オレらで分担したろ?)
(まぁな)
(…まさかじぃちゃんの勝手な計らいか?でも何で……)
(ま、オレらの仕事も軽くなるってことでいぃじゃねぇかよ)
(お気軽だな、お前…まさか知ってたんじゃねぇだろうな?)
(さぁな)
(…はぁ。あのなぁー、何考えてんだか知んねーけど、先に知ってるコトあったら共有しろって毎か…)
疑っているかのような眼差しでシカマルを見ていたナルトだったが、そんな彼の言葉も一瞬にして切られた。何故ならガラリと開いた扉から入って来た思いもよらぬ姿に、全神経が回ってしまったからだ。
「!!!」
「あっ、さんっ!!」
扉から入って来たを見て声を張り上げたのは、以前商店街で会ってから何かと可愛がっているいの。花屋の娘ということもあって、花好きのはおなじみの客となっているのだ。
「すみません…入るに入れなくって…」
「お待ちしてましたよ。どうぞこちらへ」
そういってを自分の隣に立たせる。そしてそのまま彼女の紹介をし始めた。はイルカの話を聞いているのかいないのか、大きな青い瞳を忙しそうにきょろきょろさせて教室内を見回している。
そんな彼女の様子を、ナルトはじっと見つめる。最近は家にも行っていなかったから、面を通してのしか見ていなかった。久しぶりに見る本来の姿。白い肌に大きな青い瞳、水色がかった銀色の髪、真っ赤な唇。ほんの少しの間しか見てないだけなのにその姿が懐かしくて嬉しくて、でも今は話せなくて…ナルトは苦しそうに見つめ続けていた。
そんなナルトの視線に気付いた。はっとした顔をしたかと思う少し困ったような表情を浮かべる。そしてそのまま、ナルトの斜め前に目が移った。次の瞬間、ナルトにとっては懐かしいと思えるような表情…眉間を寄せ、怒っているような顔になった。ナルトは不審に思い、自分もの見ている人に視線を動かすと、そこにいるのは何てことない、自分の相棒・シカマル。わけのわからないナルトはそのまま様子を窺っていたが、しばらくするとは口をパクパク動かして、何かを伝えて始めた。シカマルはの口に合わせて小さく声に出す。
「ば、か、シ、カ…ってうるせーよ、バカ」
くくくっという笑い声と共に、いつも通りの返しをするシカマル。シカマルの口の動きを読んだのだろう、また怒りの色を濃くしは頬まで膨らませる。その様子に気付いたイルカに「どうかしましたか?」と声を掛けられ、我に返って慌てて謝ると、その慌てぶりに笑いを堪え切れず肩を揺らしているシカマル。
そんな『いつも通り』のやりとり…今の自分とには出来ないこの空気を羨むと同時に、ナルトは更に悲しくなり頭を下げた。そのナルトの様子に気付いたも、やはり同じように悲しい表情を浮かべる。そしてそんな二人の様子に、シカマルは盛大なため息を漏らした。
「…ほんと、めんどくせー奴ら…」