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 うずまきナルト、十一歳。アカデミー生。
 金色のほわほわ頭に透き通るような青い瞳が特徴的で、「だってばよ!」が口癖の可愛らしい男の子。

 奈良シカマル、同じく十一歳。アカデミー生兼暗部総副隊長。
 黒髪でツリ目で賢くて優しくて、明虎姿でも面倒見の良いこれまた可愛らしい男の子。

 この二人が最近仲良くなった、まるで弟のように可愛いお友達。この子たちに何かあったら、絶対許さないんだからっ!

八.シロツメクサ T


 今日は久しぶりの休暇。私はお日様が真上に昇った頃にやっと目を覚ました。近頃は寒さもすっかり和らぎ、薄手の部屋着にお気に入りのパーカーを羽織っている。

「…喉かわいた…」

眠気いっぱいの目を頑張って広げつつ部屋を出ると、薬を届けに来てくれたのであろうシカマルくんが、これまた勝手知ったる様子でのんびり巻物を読んでいた。

「おはよう、シカマルくん」
「…『おそよう』だ、バカ

…年上に向かってバカはないでしょ、バカは。


 明虎は実は変化した姿であって、本当は奈良シカマルという男の子だった、と知ってひと月。始めこそ驚きはしたけど、最初にじーっとトラを見て感じた変な違和感は『変化』を施していたからだとわかり、逆にすぐに納得出来た。

―…ということは、タケに感じたあの違和感も…。

 ここまで考えて、この考えを振り払おうと頭を振った。タケだってタケの考えがあるのだろう。部外者の私が探っちゃダメだと、何度も自分の中で言い聞かせる。そしてその度に自分で言った『部外者』の言葉に傷付く。確かに私は部外者だけど…部外者という響きはどことなく淋しい。始めの頃に比べたらだいぶ仲良く慣れた気がしていたけど、それは私だけなのかな…と悲しくなる。けれどこれが事実だと、そう思い込もうとしている。

 ともかくそれ以来、明虎としてではなくシカマルとして姿を見せることが多くなっていた。本人曰く「正体バレてるヤツに変化する意味がどこにあんだよ、めんどくせぇ」だそうだ。まぁ、ごもっともですよね。
 でも私は素直に嬉しい。何故なら明虎も含め、彼自身のことをちゃんと知ることができたから。知ったことによって、もっと仲良くなれた気がするから。反対に…タケのことはまだわからない。教えてもらった弱点だった『おかえり』の言葉も難なく躱されたし、あの人の性格だとか優しさだとかはちゃんと伝わってる。私の弱い部分も知ってくれてるし、この時代の人間じゃないにも関わらず、すごく普通に接してくれる。

 ―…けど私だってタケのことをちゃんと知りたい、わかりたいって思う。そんな風に思っちゃうのは我儘なのかな……。


 そんなことを考えつつも、折角来てくれたシカマルくんと一緒にブランチでもしようと準備を始める。それと同時に、近頃里で大人気なコーヒー豆を挽こうと棚に手を伸ばすが、お目当ての品が一向に見当たらない。上の段下の段、扉という扉を開けて覗いても見つからない。おかしい…昨日まであと一回分位は残ってたはずなのに…。

「シカマルくん、ここにあったコーヒー豆知らない?」
「知らねぇよ」
「確かに昨日ここに置いといたんだけど…あぁ!!」

 食器棚を開けた時、いつも使っているマグの中に一枚の紙。そこに書かれていた内容を見て、私は大きな声を出した。それにびっくりしたのか、シカマルくんがひょっこり私を覗き込む。

「どうした?」
「やられたぁ〜…ナルトくんにっ!」
「は?」

 私は手にした紙切れをシカマルくんに見せる。そこに書かれた文字は可愛らしい子供の字で『コーヒーきんし!』の8文字。シカマルくんはやや呆れ気味に「なんだこれ」と言った。

「昨日ね、ナルトくんが夕飯を食べに来てくれたの」
「…まぁあいつの場合、昨日のみならずほぼ毎晩だろうけどな」
「それは嬉しいから全然構わないよ!で、その時コーヒーについて話したんだけど…」

.......
.....
...

「ナルトくんはコーヒー飲める?」
「いきなりどうしたんだってばよ、ねぇちゃん」

 食後のお手伝いをしてくれている金色の髪の少年に話しかける。青い澄んだ瞳にあたしを映すその姿は本当に可愛らしくて、自然と笑みがこぼれる。出会った最初の数分こそすごく不安そうな、悲しそうな目をしていたけれど、今はすっかり気を許してくれてるみたいで嬉しい。

「今すごく人気のコーヒーがあってね、食後に飲もうと思うんだけどナルトくんもいる?」
「う〜ん…でもオレ、コーヒーは苦くて飲めねぇってばよ…」

 しょぼん…という効果音が今にも聞こえてきそうなほど、落ち込んでしまったナルトくん。そんな様子もまた可愛らしくって、思わずぎゅっと抱きしめる。

「大丈夫!私がとっておきの方法でナルトでも飲めるようにしちゃうんだから!」
「!!」

 ナルトくんは顔を真っ赤にして恥ずかしそうに…でもどこか嬉しそうに抱きしめられている。元の時代では猛以外慕ってくれる人なんていなかったから、純粋に慕ってくれるナルトくんもシカマルくんも、本当に可愛くて仕方がない。シカマルくんにおいては例えトラとしての姿を知っていても、ナルトくん同様実の弟のように感じていることに何の変わりはなかった。
 その後「オレも手伝うってばよっ!」と嬉しいことを言われ、二人仲良く豆を挽く。ナルトくんにはミルクたっぷりのカフェオレを作り、自分にはブラックを入れた。初めは恐る恐る口にしたナルトくんも一口飲んだと思ったら顔をキラキラ輝かせ、その後一気にすべて飲み干してしまった。

「ねぇちゃんねぇちゃん、これ、すんごく美味しいってばよ!おかわりっ!!」
「美味しいのはわかるけど、おかわりはダメだよ」
「えー、いじわるはダメなんだぞ!」
「いじわるじゃないのー。コーヒーには眠れなくなっちゃう成分が入ってるから、寝る前に沢山飲んだらダーメ!」

 指で×印を作りながらいうと、ブーブー口を作りながら文句を言うナルトくん。しかしこの言葉を聞いたナルトくんは、ふと棚にあるほとんど空のコーヒー豆袋を見た。

「…だからねぇちゃん、最近昼間会うと眠そうなのか?」
「!?そ、そんなことな…」
「いーや、絶対そうだってばよ!だってこの間だってたまたま会った時、オレが声掛けるまで全然気付かなかったじゃん!」
「あー…そうでしたっけ?」
「そうだってばっ!!」

 鼻息荒く、自信たっぷりに何度も頷くナルトくん。確かにこの頃毎晩飲んでいるせいか、夜の寝つきは悪くなった気がする。六つも年下の子にこんなことを見抜かれるとは…。

「とにかくっ!そんなになるなら、ねぇちゃんももう飲んじゃダメだってばよ!」
「私は大人だから大丈夫です」
「良くないってばよ!」
「大人だから大丈…」
「大丈夫じゃないってばよっ!」

 ―…大体大人に見えないし!なんて言いながらほっぺたを真っ赤に膨らまし、私の心配をしてくれているナルトくんが可愛くて、あれこれ言い返しながらもついつい笑顔になってしまう。そして頭をぽんぽん撫でながら大丈夫だよー、と軽く収めてしまった。

...
.....
.......

「コーヒー豆ごときでそんな落ち込むなよ…」
「違うの、子供の可愛いいたずらに気付かなかった事が、忍の端くれとしてちょっと…」

 そう言うの表情はナルトは対する怒りなどではなく、子供の可愛いいたずらに気付かなかったことにショックを受けているようだった。

…暗部総隊長が(恐らく)本気で隠したんだから、お前が気付かねぇのは無理ねぇって…

 という慰めも口に出来ないオレは、ちょっと可哀想だと思いつつ哀れみの目で彼女を見た。するとは気を取り直したのかよし!と一言いうと、「シカマルくんにも飲んで欲しいから、新しく買ってくるね!」と言ってオレの静止も聞かずに財布片手に家を出て行った。

********

 玄関を出て、のんびり商店街へ向かう。道に沿って植えられた菖蒲の花が、これから来るであろう梅雨の季節を匂わせる。そんな菖蒲の花々を横目で見つつふと前方を見ると、俯きながらゆっくりと歩く金色のほわほわを見つけた。見つけた瞬間は笑顔になり、静かに駆けよった。

「こら、盗っ人っ!!」
「わぁっ!!」

 まいったかっ!!ってくらいな勢いで、後ろからぎゅっと抱きついた。

「おはよう、ナルトくん」
ねぇちゃん…びっくりしたってばよ!」

 ナルト自身、だいぶ前からがいるのは気配で分かっていたが、まさかいきなり抱きつかれるとは思ってもいなかった。相変わらず彼女の行動は読めないし、思考も全く読めない。それでもこんなにも強く惹かれてしまうのは、こいつの魅力なのだろう。そう思いながらも未だに抱きつかれる行為に慣れていないせいで、自分でもわかるくらいに顔が火照っている。そんなナルトを見てふふっと笑うと、ふと気がついたように今度は怖いくらいの笑顔で話しかけてきた。

「ナルトくん、昨日は素敵な悪戯をどうもありがとう」
「!!」

 …怖い、怖すぎる。笑ってるのに後ろにものすっごい黒いオーラを感じる。今すぐ回れ右をして帰ってしまいたい、そんな衝動にかられるほどの迫力だ。普通の子供だったら絶対に泣いて謝るだろう、そう思った。しばらく冷や汗を流しながらを見つめていたナルトだったが、突然ふわっと柔らかい笑みを浮かべてナルトの視線に合わせて腰をかがめる。

「な〜んちゃって。びっくりした?」
「!?」
「大丈夫、ただナルトくんの悪戯を見抜けなかったのが悔しかっただけで、全然怒ってないよ」

 ぽんぽん、とナルトの頭を撫でまわす。

「…怒らないってば?」
「え?怒られたいの?」
「…だって悪戯したら怒るのが普通だってばよ…」
「そうかなぁ?こんな可愛らしい悪戯で怒る人なんて、だいぶ器の小さい人だよっ!」

 人差し指を立てながら、そんな子とはお友達になっちゃいけません!なんて言ってくる。お前はオレの保護者かっての。頭ではそう思うのに、嬉しさで思わずニヤけてしまう顔を必死に隠そうと腕を口元にやり視線を逸らす。それに―…と言葉を続ける。

「ナルトくんは私の体の心配をしてくれたんだよね。ありがとう」
「!!」

 何でこうもこいつは、こんなにも暖かいんだろう。優しんだろう。お前の器がデカ過ぎるんだよ、バカ。ついすべてを預けたくなっちまうだろうが、アホ。一生懸命罵って気持ちを逸らそうと試みるけどやっぱり心は素直で嬉しさで溢れてしまって、の暖かさでナルトまで優しい気持ちになれた気がした。