
「もうすぐ12月だな」
「そーっすね。とりあえず仕事してもらっていーっすか一角さん」
「年末だな」
「そうですね。分かったのでお仕事して下さい、恋次くん」
「そんなわけで、うちからはお前らに頼む」
「「…は?」」
阿散井の一言に、佐伯とは声を合わせて反応した。
忘年会(企画編)
護廷十三隊の忘年会は毎年12月末に行われる。企画は祭(という名の飲み会)好きの有志と、毎回その年の新人が各隊二人ずつ『幹事』として選出される。その幹事に、十一番隊の新人代表として斑目と阿散井は佐伯とを指名した。
二人は新人とは言え席官。同じ年の春に入っていた今年の新人がやると言い出したが、は忘年会に出ること自体初めてなので、是非ともやってみたいと目を輝かせた。結果、がやるならと自然と佐伯も確定した。
護廷十三隊の忘年会は毎年任意参加であり、その参加率は全体の五割程。というのも毎年ただの飲み会になる傾向があるため、酒が飲めない人は嫌厭してしまいがちらしい。今年の幹事には、その改善も託されている。お酒好きの人もそうでない人も、みんなが楽しめる会ー…はどうせならみんなが楽しめるようにと、もう企画で頭がいっぱいだ。その第一回のミーティングはこれから開催されるということで、二人は足早に会議室へと向かった。
「はーい、企画会議始めまーす!今年の実行委員長の松本です。みんなよろしくー!」
今年の有志は松本、池松、檜佐木の三名ー…言わずもがなののんべぇだ。にとっては知り合いばかりで、会議中にも関わらずニコニコしながら手を振った。池松はそんな彼女をまるで追い払うかのように手を払い、檜佐木はニコニコしながら手を振り返した。
そんな二人を横目に松本は「さて…」と言葉を切ると、紙を一枚池松に差し出す。池松は紙を見ながら、自身の横にあるホワイトボードに何やら書き出した。そこには司会、プログラム…などが書かれていく。
「皆さんもご存知の通り、今年は去年の参加率を上回る六割を目指します!よって既にテーマ及び役割は決めてあるので!」
松本のその言葉に、新人たちは「おぉー!」と拍手があがる。普段全く仕事をしない松本も、やはり祭(飲み会)に対する力の入れようが違う。
「まずはテーマ!今年は単なる飲み会じゃなく『仮面舞踏会』にします!」
「仮面…武道会…?」
「、明らかに漢字がちげーぞ」
は『舞踏会』の言葉に馴染みがなく、頭の中では武道会…つまり現世の頃自身の双子の兄とごっこ遊びをした某有名ヒーローの天下一何ちゃらかと思い、脳内では仮面をつけた人たちが戦闘開始中だ。そんなの様子に、池松はいち早くツッコミを入れた。
「参加者は仮面を付けて、ドレスやタキシードで参加!これだけでもいつもと雰囲気違うでしょー!」
「ド、ドレスなんて持ってないです、松本副隊長…」
「そこは大丈夫!この間飲み屋で知り合ったおじさんが貸衣装屋でさー、意気投合して予算内で貸してくれることになったから!」
その言葉に再び「おぉー!!」と歓声が上がる。やはり祭(飲み会)のことになると段取りも素晴らしい。次は役割だ。池松は役割の記載を終えると、その下に名前を書き出した。
「と佐伯、お前ら司会だとよ」
「「えっ?!」」
「そ、二人は司会お願い!檜佐木と池松はプログラム組み立てや進行補助込みで、当日も二人をサポートしてあげて。で、鈴木、高橋、田中は出し物の企画。山田、三田、吉田、有田はメニューの確定。佐藤、伊藤は全体への連絡や参加者管理!ちなみに場所は洋館借りてるから!」
その後も役割を伝えると、チーム毎に分かれてスケジュールを立てることになった。と佐伯、池松、檜佐木は松本のすぐ横で話し始める。
「司会かぁ…楽しみだね、蓮!」
「めんどくせーの押し付けられた感あるけどな。ところでまっつんさん、忘年会っていつ?」
「12/22。クリスマス前だし、はサンタ服でも着れば?」
「サンタさんの服着れるの?!やったー!」
が両腕を上げ嬉しそうに話しているのを尻目に、檜佐木も佐伯も目を見開き池松の発した言葉を反芻する。サンタ…サンタと言えばこの時期特有の、真っ白なもこもこのふわふわがついた服に、真っ赤なサンタ帽。同じ色のふわふわしたミニスカートから伸びるすらりとした真っ白な足に、黒いロングブーツ…。佐伯も檜佐木ものそんな姿を想像し、思わず顔がにやける。
「最高かよ…」
「ぜってぇ可愛い、のサンタコス…」
池松、グッジョブ!!二人は心の中で親指を立てた。
「じゃあオレも隣で揃いのサンタ着るか」
「いや、お前はトナカイかツリーでいいだろ」
「は?!やだよ!」
「何言ってんのよ、佐伯もサンタよ!あんた顔だけはいいんだから、それで普段来なそうな女性隊員引き込んでこい!」
「「…」」
乱菊がピシャリと言い放つ。そう、のサンタにも普段来なそうな男どもを誘き寄せるための意図がある。
「あ、そしたら幹事はみんなサンタ服ってのはどう?参加者も誰が幹事か分かりやすいよ!」
「あ、それ楽しそー!」
「お揃いだと団結力ある感じするな!」
「松本副隊長のサンタ姿もめっちゃ需要ありそうっすよね!」
手を挙げ元気よく提案するに新人メンバーから賛成の声が上がる。その様子を松本はニコニコと見ていた。
********
司会進行とプログラムを任された佐伯とは、通常任務後毎日二人で計画を立てているようだと、松本から聞いた。場所も様々で、食堂や隊舎、鍛錬場など話せる場所ならどこでも使い、遅くまで真剣に話し合っていると。その様子に彼女が心の底から楽しみにしていることが伝わり微笑ましいが、正直どこか面白くなく感じる自分がいる。
…というのも、そのせいで夜にはいつもクタクタで、十番隊に来ても二言三言話し、途中で眠りこけてしまう。相変わらず可愛い寝顔をすぐそばで見られるし、疲れていてもここに来て一緒に笑ってくれる。それでも、どうにも面白くない。
今日も遅くに十番隊にやってきたはソファに座り、オレは自席で仕事をしながら話していた。今日あったことなんかをはじめこそ楽しげに話していただが、しばらくすると彼女の返事はムニャムニャ声になる。そしてとうとう返事が返ってこなくなり見やれば、彼女は座ったまま眠ってしまっていた。
ここ最近良くある光景にオレは小さくため息をつくと、そっと彼女に近付き隣に腰掛ける。そのまま横を見れば、普段は輝きを絶やさない瞳は閉じられていて、今は見ることが叶わない。オレンジ色の髪はふわふわに巻かれていて、オレのあげたシルバーの髪飾りが輝きを放っている。その口元は少し微笑んでいるように見え、夢の中でも笑ってんのかと小さく笑う。もっと話したかったオレの気持ちなんか知らず、楽しそうにしやがって…起きて欲しいけど起こすのも可哀想で、オレはその白くて柔らかな頬を人差し指でつつく。眠っていても違和感を感じたのか、は小さく唸ると眉間に皺を寄せ、そのままコテン、とオレの肩に頭を乗せた。
「…お疲れさん」
言われた本人には届かないであろう労いの言葉を口にすると、彼女の頭へ腕を回す。そして優しく撫でると、彼女の柔らかなオレンジ色にそっと口付けた。安心しきって眠る横顔と肩口から聞こえる間抜けな寝息が、オレの心を満たした気がした。