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初めて手にした、柄も鍔もない私の相棒
本当の意味でやっと、死神になれた日

この日のこと、私は一生忘れないだろうー…。

Time to Shine 15


 が斬魄刀の名を叫んだ瞬間、大きな衝撃が辺りを包む。更木と蓮が振り向くとぽっかりと空いていたはずの洞窟は斬られていて、バラバラと崩れ落ちた。
 突然膨れ上がった霊圧に更木と蓮は目を見開き、その根源であるを見やるー…彼女は今まで手にしていた斬魄刀ではなく、柄も鍔もない少し大きめの黒い刀を手に、背を向けていた。

「…やっと、か」

 更木は小さく呟き、ニヤリと笑う。その一言と浮かべている笑みに、蓮はもしかして…と思うものの、の次の言葉にその思考は途切れた。

「蓮、更木隊長…上手く避けてください」
「え?」
「…ごめんなさい…多分、手加減できないです」
「…は?」

 その瞬間、は振り向くと同時にその刀を大きく振りかざした。それと同時に更木は蓮を担ぎ上げ、素早く避ける。ギリギリのところで避けられたものの、後ろの洞窟は轟音と共に更に粉々に粉砕され、奥に生い茂る木々もろとも吹き飛ばした。

―…チリン

 そんな轟音と砂嵐の中の足元に転がってきたのは、一つの銀色の小さな鈴。この戦い中ずっと求めていたそれは、ずっと聞こえなかった凛とした音を奏でる。はそっと手に取ると手元で何度か鳴らし、小さく微笑む。そして華月を地面に突き刺すと、そのまま意識を手放した。

........
.....
...

 真の斬魄刀ー…【華月】を手にして、数日後。私と蓮は十一番隊の隊主室にいた。

 あの後烈火の如く怒りまくった冬獅郎が瞬歩で現れ、その辺の草木を一気に凍らせつつ更木隊長の脛を勢いよく蹴り倒すと、私を抱き上げ去ったらしい。その事を乱菊さんが興奮しながら話してくれ、その度に冬獅郎の機嫌が悪くなるのだけど、全く覚えていないのが実に残念だ。
 そのまま丸一日眠っていたのか、目を覚ますと夕日色に染まった冬獅郎がいた。その表情はどこか困ったように笑っていて、どうしたの?と聞くと「怪我すんなって言ったじゃねーか」と額を小突かれる。ふと視線を落とせば所々包帯が巻かれていて、何も言い返せない。てへっ、と誤魔化すように笑うと、そのままギュッと抱きしめられた。

 そして蓮もあの後すぐ始解まで辿り着き、私たちは先輩たちと流魂街へ任務に出るようになった。そして新人らしく日々あれこれ忙しく任務に没頭しているうちに、季節も冬に近付いている。そんな中、本日副隊長に呼ばれて隊主室まできたものの、中には誰もいない。

「あれ、隊主室ってここだよね?」
「あぁ、多分…」
「レンレン、クロ、こっちこっちー!」

 副隊長の声がして室内へ歩を進めると、隊主室の更に奥にある縁側で、火鉢に火をつけながら座る副隊長がいた。いつも一緒の更木隊長の姿はない。副隊長は火鉢でマシュマロを焼いていたようで、長い棒に刺さったそれをくるくる回しながら「座って座って!」と笑った。

「はい、二人にこれあげる!」

 差し出された棒に刺さるのは、結構炭のついたマシュマロー…と、その下に丸くくしゃくしゃになった紙と思われるもの。私と蓮は顔を見合すと、とりあえずマシュマロを食べ、紙を取る。そして破らないようにゆっくりと開くと、そこに書かれていた文字を見て、私は目を見開いた。
 動かない私を気にしたのか、蓮が私の紙を覗き見る。そして、小さく舌打ちした気がした。けれど今の私は自分の持つ紙から視線が離せない。

「俺の方が下かよ」
「クロの方が始解出来たの早かったし、鈴も取ったしね!で、お披露目は今日の夕方だって!」
「承知っす。、今日特に任務ないよな?この後鍛錬じょ…」
「ごめん、先行ってて!ちょっと行くところが!!」

 そういうや否や、私は紙を握りしめ「失礼します!」と頭を下げると一目散に走り出した。目指すところは、たった一つ…。

********

「とーしろぉぉぉー!!!」

 スパンッという気持ちいい音と共に、通い慣れた十番隊執務室の扉を開く。その音に驚いたシロと冬獅郎が、似ている色をした目を大きくして、こちらを見ている。乱菊さんはいないようだ。

「お、おぉ…どうした」
「見て!これ見てっ!!」

 そう言ってシワシワになり所々焦げ穴の空き、さらに言えば少しマシュマロも付いている紙を、彼の目の前にずいっと持っていく。そこに書かれた文字を見て、冬獅郎は再び目を見開いた。そこに書かれていたものー…それは…

【黒崎を護廷十三隊十一番隊第十五席に任命する】

 そう、席官に任命された文書だ。あの更木隊長とのお遊び、始解、そして日頃の任務での功績が認められ、異例の早期任命となったらしい。

「私、席官になったよ!冬獅郎直属の部下に一歩近付いた!!」

 そう言って心の底から微笑む。そんな私を驚いた顔のまま見ていた冬獅郎だけど、私の顔を見て微笑んでくれた。

「よかったな、おめでとう」
「ありがとう!」
「ってかその紙、何で焦げてんだよ」
「…それは副隊長が…」

 経緯を話すと、冬獅郎は「正式文書だぞ、それ。ほんと何考えてんのかわかんねーな、アイツは」と呆れた。

 乱菊さんにも報告したいと言ったところ部屋で待ってていいと言われたので、私はソファに座りシロを撫でる。窓から見えるわずかに残る紅葉は綺麗な橙に染まっていて、少しずつ冬仕度をしている様子が見て取れる。仕事をしている冬獅郎の邪魔をしないよう静かに過ごしていると、冬獅郎が筆を動かしながら声を掛けてきた。

、悪いがそこの本棚から鬼道の本取ってくれないか?」
「はーい!」

 冬獅郎のお手伝いが出来ることが嬉しくて、私はソファから飛び降り本棚へ近付く。隊も違うので、普段はお手伝いなんか出来ない。少しでも役に立てることが嬉しくて、私はリズミカルに鬼道鬼道…とぶつぶつ唱えながら、背表紙を一つ一つ目で追う。
 目的のものを見つけその本を取ろうと指を引っ掛けると、本の上に小さな袋が乗っていることに気付く。

「とーしろ、何か上に乗ってるよー?」
「…開けていいぞ」
「?私が開けていーの?」

 よく分からないが、本を取ると同時に言われた通りに袋を開ける。その中に入っていたのは、可愛い銀色の髪飾り。大きな花を中心に小さな花が散りばめられ、千歳緑の繊細な蔦で美しく縁どられている。そして所々小さな石が嵌められていて、手に持ち光を当てるとキラキラ輝いた。

「可愛い…」

 小さく漏れた声が聞こえたのか、冬獅郎が小さく笑ったのが聞こえた。光にかざしたまま冬獅郎を見ると、彼は肘をつき頬を乗せながら、少し照れたように言った。

「やるよ」
「へっ?!」
「席官祝い」

 そう言って席を立つと、静かに近付いてくる。そのゆっくりとした動作を、私はじっと見つめていう。

「いいの?」
「あぁ」
「知ってたの?」
「まぁな。隊長にはそういうのは早めに上がってくんだよ。詳しい席までは知らなかったけどな」
「冬獅郎が選んでくれたの?」
「…他に誰がいんだよ」

 少し恥ずかしそうに言いながら、私の手から髪飾りを取る。そしてサイドにまとめているオレンジ色の巻き髪に、そっと付けてくれた。今自分の姿を見ることはできないが、私のオレンジ色に絶対に映えるだろう。

「似合う?」
「あぁ」
「可愛い?」
「…あぁ」
「へへっ、ありがとう!絶対大切にするね!」

 これを選ぶとき、どんなこと考えてくれてたのかな。買うとき、どんなこと思ってくれたんだろう。そんなことを考えるだけで心に込み上げる温かい気持ちに、ニヤニヤが止まらない。私はそっと髪留めに手を添え、正面にいる冬獅郎を見て微笑んだ。
 そんな私を少し頬を染めて照れたように見ていた冬獅郎は、はぁ…と小さくため息をつく。そしてそのまま私をそっと包み込んだ。

「?!と、とーしろ?!」
「本当は…」
「…??」
「本当はお前が席官になるこのタイミングで、十番隊に引き抜こうとした」
「?!そうなの?!」

 意外な言葉に、私は驚きの声をあげた。顔を見ようと顔を横へ向けると冬獅郎も私を見ていて、思いの外近くにある綺麗な彼の顔に、私はすぐに視線を外した。頬にどんどん熱が集まるのがわかる。赤くなってるのがバレませんように…!
 そんなことを考えていると、冬獅郎も顔を正面に戻したのか肩に顎を乗せられる感覚が伝わる。

「草鹿はお前に懐いてるから反対するのは分かってたけど、それ以上にその場にいた斑目や阿散井、池松に強く反対された」
「そうなの?意外っ!」
「…全然意外じゃねーよ」

 こうなる前にさっさと異動させたかったのに…と言うと、再び抱き寄せられ顔が見えなくなる。更なる抱擁に、私の心臓は今にも飛び出しそうだ。こんなこと初めてで、心臓がバクバクなって仕方がない。どうか聞こえていませんように…そんなことを願っていると、ギュっと少しだけ強く抱き締められたと同時に、小さなため息が聞こえた。

「いつお前を引き抜けるんだ…」
「んー…諦めないで!ファイト!!」
「…他人事かよ…」

 その言葉と同時に、ジト目をした冬獅郎に頬を摘まれる。だけどその表情には似合わないくらい、彼の周りには柔く温かくて、本気で機嫌が悪い感じではなさそうだ。

「い、いひゃいよ、とーひひょ!」
「お前が誰彼構わずへらへら笑ってんのが悪い」
「へらへらにゃんかひてにゃい!はにゃひてぇー!」
「くくっ、何言ってんのか分かんねぇな」

 目の前には悪戯っ子よろしい顔で、冬獅郎が笑ってる。その表情にまた心臓が飛び跳ねて、私は摘まれた頬に更に熱が集まったのを感じた。私ばっかりドキドキされられて、この気持ちはなんなんだ。頬を摘まれているせいなのか?!ならばやり返してやる!
 そう思った私は、目の前にあった冬獅郎の柔らかそうな両頬を、同じようにそっと摘んだ。

「ひかえひにゃ!(仕返しだ!)」
「…ひゃかか、おひゃへは(…バカか、お前は)」
「にゃにー?!ひょんなこと言っ…(何ー?!そんなこと言っ…)」
ー!!席官おめでとー…って、あら…」

 突如開いた扉に私も冬獅郎も、そのままの体制で横を見るー…つまり、私たちは超至近距離で両頬を摘まみ合っている。その姿を見て神業とも言えるほどの速さで素早く伝令神機で写真を撮ると、乱菊さんは再びすぅー…と扉を閉めようとした。そんな彼女を私も冬獅郎も慌てて手を離し止める。

「ま、待てっ!入れっ!!」
「ららら、乱菊さん!私、乱菊さんのこと待ってたんだよ!!」
「えー…でもそんなイチャイチャしてる空間に入りづらいですよー」
「「イ、イチャイチャなんかしてない!!!」」

 重なった声に乱菊さんはニヤニヤしながら「はいはい、分かりました」と言い、やっと入ってきてくれた。やっと帰ってきた乱菊さんに冬獅郎はブツブツ文句を伝えるも、乱菊さんの表情にさらにイライラが増しているようだ。

「まぁまぁ、私だって理由なく抜けてたわけじゃないんですから」

 そう言うと、乱菊さんは私に「席官祝いにこれあげる!」と胸元から手渡されたものー…それは可愛いオレンジ色の花のストラップのついた最新式の伝令神機。

「席官になったなら必要でしょ?」
「ありがとー、乱菊さん!嬉しい!!」
「私とたいちょーの連絡先はもう入れておいたからね!」
「〜〜ますます最高です!!」

 私は自分より背の高い乱菊さんに嬉しい気持ちが少しでも伝わるよう、ギュッと抱き着いた。チラリと冬獅郎に目をやると彼も微笑んでいて、それだけで私は幸せな気持ちになった。すると外からいくつもの足音がドタバタと聞こえてきて、私も乱菊さんも首をかしげる。そのままスパンッと再び扉が開かれると、ほんわかしていた空気が一変して騒がしくなった。

!やっぱりここにいやがった!いつまで待たせんだよ!」
「ぎゃっ、ごめん蓮!鍛錬すっかり忘れてた!!」
「シロちゃーん!聞いてよ、イヅルくんがね!」
「あー…それ今聞かなきゃいけねーやつか?」
「クロー!遊ぼー!!」
「ふ、副隊長!私はこれから鍛錬が…」
「あっ、探したぞ!15分後にある南流魂街57地区の虚討伐メンバーに欠員出たから、お前来い!」
「れ、恋次くん!それは急すぎだよ!!」
「ほっつき歩いてるお前が悪い!門集合だから遅れず来いよ!」

 華月取ってくる!冬獅郎乱菊さん、ありがとう!雛森さんお疲れ様です!蓮はごめんー!!…と言うと、私は慌ただしく部屋を飛び出す。

っ!」

 冬獅郎に呼ばれて振り返ると、彼は腕を組み相変わらず眉間にシワを寄せているが、不敵な笑みを浮かべながら言ってくれた。

「さっさと駆け上がってこい」
「!!りょーかい!」




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黒崎。護廷十三隊十一番隊所属で、今日から第十五席。
斬魄刀は華月で、その正体はダンディなおじ様。

好きなことはシロと一緒にお昼寝をすること、乱菊さんとスイーツを食べに行くこと、副隊長と鬼ごっこをすること。
でもそれより何より、一番は冬獅郎と夜にその日一日の話をすること。

宝物は翡翠色のアンクレット、赤鼻のリスのぬいぐるみ、今はそのリスのアクセサリーに改良した千歳緑の元髪留め、乱菊さんにもらった伝令神機。
でも今の一番は、私のオレンジ色に映えるシルバーの髪飾り。

目標は二つ。一つは、いつか一護に会いに行くこと。
そしてもう一つは、冬獅郎を守る、彼直属の部下になること。

この二つを実現するため、今日も死神頑張りますっ!


【第一部:再会編 完】