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前を向け、
今のお前になら、聞こえるはずだ

恐怖を捨てろ、前を見ろ
進め、決して立ち止まるな

退けば老いるぞ、臆せば死ぬぞ!

叫べ、我が名はー…!!

Time to Shine 14


「待ちくたびれましたよ、更木隊長」

 更木が洞窟に入ると、蓮のかなりの霊圧を感じる。当初から新人とは思えないレベルであったが、今感じるものはより一層研ぎ澄まされており、今までのそれとは違う。直感的にこれが最後になるだろうと、更木は感じた。

はどこ行った?」
「それは言えねーな」
「…それは楽しみだ」

 この6時間、二人は常に息の合った連携プレイを見せていたが、たまに一対一も仕掛けてきていた。但し数分にも満たない単発で。この戦いの中で、長期戦になればやられるだけだと判断したらしい。口には出さないが、そんな二人の『賢さ』も更木は評価していた。

「この狭い洞窟でやりあうとは、考えたな」

 特殊な洞窟なのだろうか、中では蓮の霊圧がまるで乱反射しているかのようにあちこちに散乱し、の霊圧はまるで掴めない。さらにここは狭い洞窟、大柄の更木は刀を振り下ろせない。ここでの戦いは彼にとって、かなり不利な状況ー…いや『かなり楽しめる状況』だ。更木はニヤリと笑みを浮かべた。

「あざっす。まぁ、の案なんだけど」

 蓮は立て続けに「その笑い怖いんで止めてもらっていいっすか」と笑った。そのやり取りは戦い中だということを忘れそうなほど、ごく自然な流れだ。しかし一度蓮が刀を小さく振り鳴らし「じゃあ行きますね」と言うと、霊圧をさらに高めて斬りかかった。
 蓮が真正面から斬りかかり、更木も同じく彼の斬魄刀で受け止める。しかし力で勝てるはずもなく、蓮はある程度まで押すと、一旦引く。その隙を狙っていたのか、更木は一気に間合いを詰め、振り上げられない代わりに突きの体勢で蓮に斬りかかるー…その瞬間。

「破道の三十一、赤火砲!!!」

 突如洞窟の入り口から声が響き、火の玉が更木に当たる。鬼道を放ったは重心を低くしたまま、彼の足元に素早く切りかかる。しかしやはり斬れない。間違いなく刀は当たっているのに、その体は全く斬れないのだ。

「…何でっ…!!」
「ほら、行くぜ!!!」

 更木は目の前に現れたに斬りかかり、は何とか自身の斬魄刀で受け止める。しかしその手が小さく震えていることに気付き、更木はニヤリと笑った。

「…俺が怖いか、
「?!」

 その言葉に目を見開き、の肩が揺れる。刀を振り上げると、そのまま下がり距離を取った。その表情は恐怖で歪んでいる。その顔を見て、更木はニヤリと笑った。

「こっちだ、更木!!」

 真後ろからの声に更木は振り向くと、声の主の姿はない。かと思えば洞窟の壁を利用して真上から斬りかかった。

「?!」

 予想外の真上からの攻撃を刀で受け止めるも、その隙にが背後から斬りかかる。更木は手足の長さを生かしを洞窟の外へ蹴り飛ばすと、蓮を力で押し壁際に寄せる。

「…ぐっ…」
「いい筋してんな、お前。だが…」
「?!」

 更木は素早く体を後ろへ引くと、目に見えぬ速さで蓮に斬りかかった。

「蓮っ!!!」

 の悲痛な叫びも虚しく、真っ赤な液体が洞窟を染める。やちるが笛を吹くも更木は止まらず、今度は真正面から斬りかかってきたの刀を受け止める。

「…ぐっ…」
「バカかお前は。自分より強ぇ奴に感情だけでつっこむな」
「…っ」
「…まぁ、オレはバカは嫌いじゃねぇけどな」

 そう言うと、更木はそのままを押す。彼女の浅打はその力強さとどんどん上がる彼の霊圧に耐えられるはずもなく、折れると同時に彼女の胸元を斬った。

「…!!」

 折れた衝撃と胸に走る痛み、そして直に感じる更木の霊圧に声も上がらず、は膝をつく。折れた刀を前に体は小刻みに震え、視界は涙で歪む。その背後で蓮が自らの刀を支えに立ち上がり、更木に斬りかかる姿が見えた。動かなきゃと思う反面体は言うことを聞かず、その場から動けずにいた。

********

「くそっ!更木の野郎、何考えてやがる!!」

 松本に叫ぶように呼ばれたのは、ほんの少し前。日番谷は眉間に皺をよせ、モニターの前で声を上げる。確かに殺してはいない。殺してはいないが、新人相手に刀を折り刀傷を負わせるとは、隊長のすることではない。

「完全に楽しんでますね、うちの隊長…」
「まぁあの二人の実力じゃ、抑えようにも抑えられなかったんじゃないっすかね」
「でも、このままじゃ…!止めに入りますか?!」

 焦る松本の視線の先には膝をつき俯くと、一人更木に挑む傷だらけの蓮の姿ー…。立て、立ち上がれ…誰もがモニターに映るその小さな体から視線を外せずにいた。

********

―…どうしたらいい…どうしたら勝てる…?
―…刀のない状態で、どうやったらいい…?
―…私の力ではこんなものなの…?こんなんで冬獅郎を守りたいだなんて言えるの…?
―…どうしたら…どうやったら……

 傍で蓮が更木隊長と戦う音が耳に入る。動かなきゃと思うのにこの役立たずな体は震えるばかりで、全く言うことを聞かない。動け…動け動け動け…!!!

『何に怯えている、
「?!」

 突如聞こえたその声は、今は折れてしまった私の斬魄刀。この戦いの間一切語り掛けてこなかったのに、今になってやっと聞こえた。私はゆっくりと顔を上げると、案の定目の前には久しぶりに見る、真っ黒な服を着たダンディな男性が立っていた。

「おじさん…なんで…」

 折れたのに話せるの…?と小さく呟くと、彼は目の前に転がる折れた斬魄刀を見下ろし、ひとつため息をつく。そして私の頭にポン、と手を置き言った。

『あれは私ではない』
「え?」
『あれはお前が勝手に拾ってきた、見知らぬ斬魄刀であろう』

 確かに折れた斬魄刀は、私が流魂街にいるとき、命を守るために亡くなった死神と思われる人が持っていた刀を、勝手に拝借したもの。今まであれが彼だと思っていたけど…違うの?じゃあおじさんはどこからー…。そんな私の疑問もわかっているだろうに、おじさんは真面目な顔をすると諭すように声をかけた。

『さぁ、あれこれ考えている暇はない。お前の同胞は前を向き、一人戦っているぞ』
「うん、助けなきゃ…」
『あの刀は折れたとしても、お前自身はここで折れるわけには行かないのだろう』
「うん…でも…」

 更木隊長は斬りつけても微動だにしない。鈴を奪おうにも奪えない。今まで経験したこともないような恐怖が、私を襲う。小刻みに震える手をギュッと握って誤魔化す。その手を彼は冷めた目で見ると、少し呆れたように話しかけてきた。

『お前はこんなことで怯えるタマであったか?』
「え?」
『私はお前が幼い頃から知っている。お前はいつも、目に見えぬ《病》という敵と闘っていたではないか』

 忘れたのか、と額を小突かれた。…そうだ。私はそれこそ『斬っても斬れないもの』とずっとずっと闘っていたではないか。流魂街でも、更木隊長ほどの霊圧の人には出会わなかったが、それこそ何度も殺されかけたではないか。経験したこともない恐怖?そんなの勘違いだ。目を覚ませ、黒崎

『…いい目だ。さぁ、恐怖を捨てろ』

 彼の声に私は目を閉じ、深く息を吸う。

『前を見ろ』

『進め、決して立ち止まるな』

『退けば老いるぞ、臆せば死ぬぞ!』

『叫べ、我が名はー…』




華月(かげつ)ー…!!!!!