
今オレの隣で一緒に固まっているのは、アカデミーの頃からのいたずら仲間・キバとチョウジ。そしてオレ達の目の前にいるのは、シカマルの彼女でいのの妹・ちゃん。
彼女は両手を顔を前で合わせながら目をぎゅっと閉じて、俺達を固まらせたその言葉を再び口にした。
「明日の先輩方の時間と体、私にくださいっ!!」
…一体、何がどうなってんだってば…??
『大好き』をキミへ 【9月21日】
暖かなオレンジ一色に包まれた、木の葉商店街。その入り口に立つ、任務を終え忍服姿のままのオレとキバ、そしてチョウジ。そこから数メートル離れた曲がり角には、変化の術で男の子に変装したちゃんが隠れている。
「なぁナルト、なんで俺たちがわざわざ任務の後にここまでしてやんなきゃいけねーと思う?」
「そんなこと言われても…あそこまで真剣に頼まれたら断れないってばよ…」
「ちゃんの頼みだもん、叶えてあげようよ」
ニコニコ顔のチョウジを余所にキバと二人、はぁ…とため息をつく。するとそこに、本日のターゲットが片手を挙げてやってきた。
「わりぃ、待たせたな」
「おせぇってばよ、シカマルっ!」
「わりぃって。綱手様が離してくんなくてよ。で、どこから回るんだ?」
「あんまり時間もないし…まずは雑貨屋さんにでも行こうよ」
チョウジがそう言えば、男四人はふらふらと歩き出した。その後ろをこそこそと変装したが離れてついて行く。
―…そう、これはの作戦。題して『男同士でさりげなく買い物をしつつ、シカマルが本当に欲しいものをわかっちゃおう!』作戦である。名目としては今晩酒酒屋で行われるの姉・いのとシカマル本人の合同誕生日飲み会で、いのに渡すプレゼント選び。しかしその実態は、シカマルが興味を持って手に取ったものを少し離れたがメモする、というものだった。
―…彼の本心を引き出すには、仲間の協力が手っ取り早い。
先輩方からそう入れ知恵を得たは、真っ先にこの三人組のところへと向かった。熱心に頼みこみ、成功した暁には一楽を奢るという報奨付きで、三人は承諾した。それぞれ任務後なら…ということだったので、タイムリミットは飲み会が始まるまでの二時間。三人は後ろで一生懸命気配を絶ちながらついてくるにエールを送った。
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「シカマル、これなんていの好きそうじゃない?」
「あー…わかんねぇ」
「これも使えそうだってばよッ!」
「…そうかもな」
「バカナルト、こっちの方が良いに決まってんじゃねーか!な、シカマル?」
「あー…そうかもしんねぇ」
正直、女物の善し悪しがちっとも分からないシカマル。ずっと幼馴染みであり、今は彼女であるにさえ未だかつて贈り物をしたことがないのだ。分かるわけがない。なので女物を持って来られて「これはどうだ?」なんて聞かれても、何て答えればいいのか分からないのだ。
―…これも実は作戦のうちの一つ。シカマルが女物なんてわからないと分かっていて、敢えて三人は彼に聞き入っていた。事前に立てた台本通りの進行に内心ニンマリしつつも、チョウジは流れをそのまま引き継ごうと、腕の内側に書いた台本をちらりと確認する。そして多少わざとらしくも台詞を続けた。
「(えーっと…)『おい、シカマル!お前、適当に答えてんじゃねーってばよ』」
「…は?チョウジ、お前悪いもんでも食ったのかよ」
「(それは俺の台詞だってばよっ!)どどどど、どうしたんだってばよチョウジッ!俺の真似でも始めたのかってば?!」
「あ、あはははは〜!最近ナルトの口真似が流行ってるんだよね!ねっ、キバっ!?」
「(はっ!?)お、おうっ!…てばよっ!!」
身ぶり手ぶりで急いで取り繕うものの、チョウジの爆弾発言で三人は冷や汗だらだら。後ろにいたも思わず飛び跳ねた。目の前で突然始まったナルトの真似ごっこにわけわかんねぇ…という顔をして、シカマルの視線は再び可愛らしい小物たちへと戻って行った。
「(はぁ…何やってんだってばよ、チョウジ!)」
「(ご、ごめん!緊張して間違えちゃった…)」
「(…まぁバレてなきゃ大丈夫だろ。よし、いよいよ作戦に移すぞ。頼んだぞ、ナルト)」
「(了解っ!)」
棚の奥でひそひそと作戦を立て直す三人。そしてすすす、と相変わらず眉間に皺を寄せて女物の商品を眺めているシカマルの横へと移動した。
「ねぇシカマル。シカマルはさ、今いのが何欲しいのかとかわかんないんでしょ?」
「あぁ…正直女物とかさっぱりだ。これなら暗号解読の方が簡単だっつーの」
可愛らしいウサギの小物をプラプラ揺らしながら、はぁ…と深いため息をつくシカマル。よし、このまま乗り切るんだ!三人は一気にまくしあげた。
「そしたらさ、ボクとキバで店員さんに今のお薦めの物とか聞いて決めちゃって来るから、シカマルはナルトと男物の方とかプラプラしてきなよ。最近休み無しだったんでしょ?たまにはいろんなもの見るのもいいと思うよ」
「そうそう、お前、最近眉間のしわひどくなってきてるしよ!」
「今なら秋物も出てきてて見ごたえたっぷしだってばよっ!」
そう口々に言う三人。一見すれば怪しさ極まりないが、シカマルは三人の顔を見ると小さく笑っていった。
「あー…折角だけど遠慮する。そりゃ良い案だけど、お前らにもわりぃしな」
「「「!!」」」
さすがザ・ベスト・オブ・フェミニスト、シカマル。男にもその辺きっちりしてるなぁ…。っていやいやいや、ここで引いてもらわないと、ボク達、先に進めないんだよ〜!!
「ぜぜぜ、全然平気だよ!ね、キバ、ナルト?」
「お、おう!俺は今日休みだったしなっ!!」
「あ?キバ、お前今日任務がー…」
「あー!あっちの方に良さそうなのが並んでるってばよ!行くぞ、シカマルッ!!」
そういうと有無も言わさず、ナルトはシカマルの腕を取り男物の方へと引きずった。
「は?ちょ、ま、待てって、ナルトッ!!」
「んじゃ、プレゼントが決まったら呼んでくれってばよっ!」
「「了解〜〜!!」」
遠くなる二人の影。その後をは音もせずひそひそと追いかけ続けた。
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「おーー、それ、すげぇカッコいいってばよっ!何何、『シルバープレート』」
「『将棋と忍術における科学的必勝理論法』…お前、こんなのも読むのかよ…」
「おぉー!『風切木の葉手裏剣』!それ、秋の新作だってばよっ!!」
ナルトはシカマルが手に持った商品名を、何でもかんでも必ず口にした。その度には離れた場所から、持ってきた手帳に一字一句逃さぬようにメモを取るのだ。
―…この調子だと上手くいきそう!三人には本当に感謝だよぅ〜!
はこの作戦の成功を確信し始めていた。
一方シカマルはシカマルで、この数時間の出来事に不信感を持ち始めていた。ナルトとはそんなに買い物を一緒にするような仲ではなかったが、こうも持った物にいちいち反応されるのだ。不信感や違和感を覚えないはずがない。
―…何だ?いちいち商品の名前まで口にして…まるで誰かに教えてるみたいな……!!
ここまで考え、シカマルは一人の人物を思い浮かべた…そう、だ。明日は自分の誕生日、普段プレゼントなんて用意しないのに昨日突然誘われた三人からの外出、雑貨屋…。すべて絡みだとすれば全部納得がいく。シカマルは試しに、ナルトに気付かれないように回りの気配を探ってみたが、本人は見当たらなかった。
…となれば…シカマルは試しにあるものを手に取ってみた。
「シカマルー!次は何持ってんだってばよ…って『イチャイチャパラダ…』……!?だ、だめだってばよシカマルっ!そんなもん手に取っちゃっ!!」
その言葉に、二つ奥の棚に立っていたは飛び跳ね、思わず手帳を落として顔中を真っ赤にさせた。その様子を偶然目にとめたシカマルはくくくっ、と笑う。あの少年がであると確信したのだ。
シカマルが手にした物…それは『イチャイチャパラダイス』。年頃の健全男子ならば一度は手にしたことがあるであろう類のシロモノ。ナルトと変装中のの反応が面白くて、今度は他の物を持ち上げてみる。
「『イチャイチャタクティ…』…ってそれもだめだってばよー!!」
「〜〜!!!」
「くくくっっ…」
律儀にタイトルを教えようとするけど恥ずかしいナルトと、そんなの声に出されても恥ずかしさでいっぱいの変装中の。この二人の素直な反応が面白くて、シカマルは大して興味もないのに次々と手にとってはナルトに大きな声でタイトルを読ませた。
―…お前の思い通りになんてなってやんねーよ、バカ。
店内には18禁のタイトルを読み上げる少年とそれを楽しむ少年、さらには離れた場所に真っ赤な顔をした子供がたっていたそうな。
誕生日は明日です。間に合うのでしょうか……?