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私が生きてきたこの十五年間、キミが頭から離れることはなかったよ。
一度は離れようかと思ったけれど、そんなの出来るはずがなかったんだ。

お誕生日おめでとう、しーちゃん。
今までもそしてこれからも、ずっとずっと大好きです。

『大好き』をキミへ 【9月22日】


 あの後、しーちゃんは散々いかがわしい本を手に取っては、ナルトくんに読ませて肩を震わせていた。私はそんな様子を見ながら恥ずかしくて固まっていると、突然肩に手を置かれて思わず跳ね上がった。

「わぁっ!!」
「あ、悪い、驚かせたか?」
「何だ、キバくんか…びっくりしたよ!!」
「悪い悪い、オレらは買い終わったんだけど、そっちはどうだと思ってよ」

 くいっ、と親指を立てて指した方向には、何やら小さな紙袋を二つ持ったチョウくんが立っていた。

―…あらら、思いの他早くプレゼントが決まっちゃったのね。…にしても二つ…?あぁ、そっか!!

 そう、今晩はいの姉としーちゃんの合同誕生日会。いの姉のっていいながら本人のも内緒で買ったんだ!その優しさが嬉しくて笑顔を作ると、チョウくんも意味を受け取ったのか、笑顔を浮かべて話しかけてきてくれた。

「ごめんね、二つとも思いの外早く決まっちゃってさ。もしちゃんがまだだったら、ボク達もう少しあっちで隠れてるよ?」
「ん〜…」

 子供のころから変わらぬ優しさいっぱいのチョウくんを見つつ、ターゲットであるしーちゃんの方を見る。そこには相変わらずナルトくんで遊んでいるしーちゃんがいた。その様子から大した情報は得られてないけど、長年の勘でこれ以上調査しても何も出ないだろう、と踏んだ。それにこの後も居酒屋行かなきゃだし、みんな任務の後に無理して来てもらったんだもん、少しでも帰って休憩してもらった方がいいよね。

「ううん、もう大丈夫!任務の後なのに無理させちゃって本当にごめんね」
「大丈夫。キバもナルトも楽しんだんじゃない?」
「おうっ!ついでに赤丸のおもちゃも買えたしなっ!」

 任務後で疲れてないはず無いのに、こうやって付き合ってくれる友達。こんな友達や仲間に囲まれて、私はすごく幸せ者だなって心の底から思った。

「ありがとう。今度絶対一楽奢るね!」
「しっかり覚えとけよ、その約束っ!!」
「楽しみにしてるね。じゃぁ、また後で酒酒屋でねぇ〜」

 二人は笑顔を浮かべながら、ナルトくんとしーちゃんの方へと歩み寄った。そのままドカッとナルトとしーちゃんの肩に飛びかかるキバくん。四人はその場で二言三言喋ると、そのまま楽しそうに店内から出て行った。

―…男の子っていいな。仲間って素敵だな…。

 そう思いながら段々小さくなる四つの影を見送ると、私はその場で術を解いた。そしてふぅ、と気合を入れ直すと、再び店内をずっと彷徨い続けた。少しでも、誰よりも大切な彼が本当に喜ぶ姿が見たいから…。

........
.....
...

 いのとオレの誕生日会という名の飲み会は、予想以上の人数だった。一緒にプレゼントを買いに行ったナルト、キバ、チョウジはもちろん、他の同期や後輩までもが盛大に祝ってくれた。さらに夜も更けてくるとオレ達の師でもあるアスマや紅さん、カカシさんやガイ先生までも来て、誕生日会というよりも単なる飲み会と化していた。
 そんな中、飲み会開始時からずっと待ち続けている人物が一向に姿を見せない。店の引き戸が音を立てるたびにそちらを向くのに、あの見慣れた姿が見えてこないのだ。

―…あれからもう五時間以上経ってるんのに、まだあの店にいんのか?いやいや、さすがに店も閉まってんだろ…。

 ずっと求めてる存在…誕生日を一番祝って欲しい人物であるが現れる気配が全くなくて、オレは何度目か分からないが席を立つ。すると酒が十分回っているのであろう暗号解読班の女後輩が、ぐいっと隣から腕を掴んできた。

「奈良先輩、どこいくんですかぁ〜?」
「どこって…便所?」
「お手洗いならついさっき行かれたばっかじゃないですか〜!それよりも飲みましょー!はい、『お誕生日おめでとうございま〜す』!!」

 そういってオレのグラスにどばどばと酒を注ぐ。

―…酒なんか飲んでる場合じゃねぇっつーのっ!オレは外の様子を見に行きたいんだっ!!

 心でそうは思っていても、後輩がオレの祝いにと注いでくれた酒。これを飲まずに席を立つことはできない。オレは少し遠い所にいるいのに、もう何度聞いたかわからない質問を繰り返した。

「おい、いのっ!本当にアイツ、今日来るって言ったんだよな!?」
「もーしつこいなぁ、でしょっ?今朝確認したけど、ちゃんと『来る』って言ってたわよっ!同じ質問何度もしないでよ、まったく!」

 そう言いながらガブガブ酒を飲むいの。相変わらず酒に強いヤツだ。飲んですぐに眠くなってしまうとは大違い。
 そんなことより、あと三十分ほどで日付が変わる。こんな時間に一人でここに来ようとしてるんじゃないか…。そう思い始めると気が気じゃなくて、オレは目の前の酒を一気に飲み干した。



ガラガラガラ……
「?!」

 やっとその場を離れられ店の引き戸を開けた瞬間、オレは驚いて思わずびくついた。扉の右側…オレの足元に小さく蹲る女がいたからだ。いつもなら引き戸に手を掛けた瞬間人の気配などすぐに分かるのに、だいぶオレも回ってるらしい。女は引き戸が開いた音にも、オレの気配も無視して静かに蹲っている。

「おせぇよ」
「…ごめん」

 は小さく謝って、ゆっくりとオレの方を見上げる。その目は何故だか今にも泣きだしそうで、綺麗な目は涙と店の明りでキラキラしている。ずっと求めていた彼女の、いつも元気な彼女とは違う儚げな雰囲気に、オレは目を泳がせる。

…酒が回っているオレには刺激が強すぎだ、バカ

ぐいっと引き上げると、変な気が起きないうちに人が大勢いる店内へと引き連れようとした。

「だ、だめっ!入れないっ!!」
「は?」

 その瞬間にバッ、とオレの手を振り払う。飲みに来たはずの彼女が入店を拒否する。意味がわからない。オレは早く一緒に酒でも飲んで、数分後に迎える誕生日を誰よりも一番近くで祝って欲しかったのに…冗談でも言ってんのかと思った。だがの目は真剣そのもので…何か理由がありそうだ。
 しばらく無言でお互いを見ていたが、今度は離されないようにギュッと手を絡め、店内とは間逆の闇の中へと歩き始めた。

「ちょっ、しーちゃん?!どこいくの?!」
「んー…とりあえず、その辺?」

 まずはこのよくわかんないわがまま娘を何とかしなければだめだ。そう思い、真っ暗の中二人でゆっくり話せる場所を探し求めた。


********

「…で?何があった?」
「……」

 そう話を切り出すも、わがまま娘…は口を閉ざしたまま下を向く。
 辿り着いたのは公園。使う人もなく、ブランコには腰掛けた。オレはその向かいのポールに体重を預け、足を伸ばす。しばらくのほうから話しかける雰囲気もなかったが、オレは静かに言葉を待つ。ずっと一緒に育ってきたんだ、こういう時は彼女の方から話し出すのをじっと待つしかないのを、オレは知っている。

「…なかったの」
「は?」

 やっと口から出た言葉は小さくて、聞き直しただけなのには体をびくつかせて俯いたまま。言葉の続きを辛抱強く待っていると、次の瞬間には堰を切ったかのようにポロポロと涙を流して言った。

「あのね、分からなかったの。しーちゃんが今何が一番欲しいのか、分かんなかったの…」
「…」
「一番欲しいものをあげたくて調査したり、他にもいろいろ…いろいろ見たり考えたりしたら、分かんなくなっちゃったの!彼女なのに…私、しーちゃんの彼女なのにぃぃ〜!!」

 うわぁぁ〜〜〜んっ、と涙が次から次へと溢れてきている。だからプレゼントが買えなくて、飲み会の席にも行きづらくなってしまった…そう涙を流しながら話し始めた。両手で涙をぬぐう様はお世辞にも大人の泣き方とは言えなくて、まるで幼い子供が大泣きしているようだ。オレはそんな彼女がどうしようもなく愛おしくて、ブランコに近づくとポンポンと頭を撫でる。そして少しだけ屈むと、思いきり抱きしめた。

「しーちゃ…?!」
「別にプレゼントなんかいらねーよ」
「…ダメだよっ、必要だもん!やっと…やっと、しーちゃんの彼女になれたのにっ、初めての誕生日、何もあげられないとかっ…ダメダメだよっ…」

 しゃくりが止まらないにも関わらず喋る。幼いころから何も変わらない、ありのままのが可愛くて、優しく背中を叩きながらすぐそこにある頭にそっとキスを落とした。そしてとりあえず彼女がすっきりするまでは、ひたすら抱きしめて泣かせておくことにした。

........
.....
...

 しばらくして落ち着いたのか、オレの腕の中にいるが目を真っ赤にしてオレを見上げる。その姿にドキリとしたが、抱きしめる力を強めることで何とかやり過ごす。

「しーちゃん…私、ヤダよ?」
「何が?」

 きゅっと肩口を握りしめて、は口を開く。

「しーちゃんのコト全部はわかってないかもしんないけど…これからいっぱいいっぱい知りたいから…だから絶対絶対、言わないで?」
「何を?」
「…『別れる』とか、言わないで…」


………は?

 のそのすっとんきょんな考えに、さすがのオレも理解不能に陥った。オレが別れを切り出すとでも思ってたのか?何で?

「え?お前、オレと別れるとか考えてたのか?」
「だって!変なのあげたら嫌われちゃうかなって!嫌われたくなくて怖いから、何も買えなかったんだよ!!」

 そう言うとやっと治まった涙が、その大きな瞳から再び流れてくる。

 ―…あーなるほどね。やっとわかった。コイツはオレに嫌われたくなかったわけね。『変な物を贈る=嫌われる=別れる』と考えてたわけか。いつもは猪突猛進なコイツが、いろいろ迷って悩んでこうなったのか…。
 泣いているには悪いが、オレは嬉しくて、これまでにないくらいコイツをめちゃくちゃに抱きしめたくなった。バカなくせにオレのことだけを思って考えて、いっぱいいっぱいになって腕の中で涙を流し続けるが可愛いし、こんなにも愛おしい。
 オレはもうたまらなくなっていて、無意識に抱きしめる力が強くなる。

「なぁ、
「…ん?」
「上向け」
「…ヤダよ、いっぱい泣いて今史上最大にぶちゃいくだもん…」
「ぷっ…いいから向けって」
「…なに…っ?!!」

 上を向いた瞬間、顎を押さえて優しく柔らかな紅色にオレのものを合わせた。何度も何度も重ね合わせて、お前への愛おしさが伝わってくれれば良いと思う。苦しくなってが空気を取り込もうと唇を離した瞬間、さらに深く口づけをする。

「っっふぁ…っっんっ…!」

 柔らかな髪をかき抱き腰を引き寄せ、もっと深くお互いを味わう。の距離をいくらゼロにしても、心はもっと彼女を欲している。いっそのこと一つになれればいいのに。
 は力が抜けきっていて、気付いたらブランコからずり落ちて二人で砂の上にいた。そんなコトはお構いなしに、オレは今までになくのすべてを食べてしまいたくて、深い深い口づけを離すとそのまま頬へ、耳へ、そして首筋へと移動する。甘い香りのする髪をかき分け、真っ白な首筋にいくつもの赤い印を浮かべる。その度にの体は小さく跳ねて、その度に愛おしさが増す。

 愛おしい……愛おしい。彼女のすべてが、欲しい……。

「…んっ…ふぅっ…しーちゃ……」
「!!!」

 口元に手を当て、甘い吐息と一緒にか細く呼ぶ声ではっとした。このままだとここで押し倒してしまいそうな勢いだ。オレは何とかまだ残っていた理性を総動員させ、大きく開いた胸元へと進んでいた唇をそっと離した。そして再び唇にのそれを合わせると、きつくぎゅっと抱きしめた。はとろんとした眼差しのまま、オレの腕の中でくたりと体重を預けていた。

********

「しーちゃん、他の人たちから何貰った?」

 しばらくして意識がはっきりしてきたのか、腕の中でオレの服をきゅっとつかみながら尋ねてきた。今迂闊にを見下ろすと自らが散らした朱が目に入り、精神的に来るものがある。それだけは何とか避けたい。オレは悩んでプレゼントを買えなかったと言う彼女に言っても良いのか少し考えるも嘘をつくのも憚られ、上を向いて正直に答えることにした。

「新しいピアスとか将棋本、武器数種類に服数着、鹿の置物に湯呑、あとは…」
「その中にっ!!」

 指折り思い出すオレの指を突然きゅっと掴んで、再び目を潤ませながら見上げてくる。おいコラ、だからその顔やめろってば。自制利かなくなったらどうしてくれるんだっつーのっ!それにもっと胸元の見えない服着ろ!!どうしてもさっきオレがつけたもんに目がいっちまうだろーがっ!!
 そんなオレの思いとは裏腹に、は追い打ちをかけるように可愛いコトを聞いてきた。

「その中にしーちゃんが今一番欲しかった物、あった?」

 その質問に、オレは小さく微笑んだ。オレが一番欲しいもんは、たった一つだけ。もう二度と手放したくない、たった一つのもの。そしてこれからもずっとずっと、大切にしていきたい存在。こんな簡単な答えもこいつは分からないとか、ほんとバカだ。バカで、こんなにも愛おしい。
 ずっと返事がないオレに不安になったのか、は眉をハの字に下げて小首をかしげる。

「ねぇ、しーちゃ…」
「これ」

 そう言いながらオレの指さす先―…それは彼女自身。

「オレ、『これ』が欲しい。つーか正直、『これ』しかいらねー」

 月明かりしかない場所だけど、オレの指先は真っ直ぐにお前を指している。は意味が分かったのか一気に顔を真っ赤にさせ、大きな瞳を右へ左へきょろきょろさせる。そして少し俯き、困ったように…でもすごく幸せそうな笑顔を真っ直ぐにオレに向けてこう言った。

「どうぞ…?」

........
.....
...

 月夜に響く、新しい日付を知らせる鐘の音。
 その音をあなたの腕の中で微かに聞きながら、私は確信したの。
 私が今年贈った物は、今までで一番素敵なモノだったんだって。

 だって今までで一番の、とっても幸せそうな笑顔に出会えたんだもん…。




私の彼は、頭が良くてカッコよくて、優しくて頼れる人。
甘えん坊でフェミニストで、キスを沢山くれる人。
沢山の初めてと、沢山の愛を与え続けてくれる人。

来年も再来年も、ずっとずっとその笑顔のそばにいられますように…。