
「しーちゃんっ!今いっちばぁーん欲しいモノってなぁに?」
私はニコニコしながら、大好きな幼馴染みで、今は大切な彼氏のシカマルに尋ねた。物心ついた頃から毎年、この月になると私は必ず同じ質問をする。そして毎年毎年、必ず同じやりとりを繰り返す。
「特にねーよ」
「わかったっ!んじゃぁ今年も任せといてっ!」
―…さて今年はこれが吉と出るか凶と出るか……。
『大好き』をキミへ 【9月20日】
しーちゃんに初めて『あげた』プレゼントは今から約十二年前、彼が五歳の誕生日を迎えた日のこと。何も考えずにあげた初めての贈り物は、今思い返せば笑えるんだけど…それはうちの店先で売っていた観葉植物用の栄養剤だった。その理由が単にその緑色が綺麗で彼に似合いそうだからってだけで…用途も何も知らずに、ただ『あげた』のだ。
…そう、文字通り『あげた』の。『買って贈った』じゃなくて『あげた』。
もちろん即お父さんにバレて、それはもうすごい勢いでげんこつされた。しかもその時しーちゃん家には観葉植物がひとつも無くて、もらっても困るシロモノだった。まぁ今思い返せば私が百パーセント悪いんだけど、可愛い娘にげんこつはないでしょ、げんこつは。
それからは毎年、しーちゃん本人にその時一番欲しいモノを聞くようにした。けれどしーちゃんは幼いころから優しくて、本当に欲しいモノは絶対に教えてくれなかった。
「特にねーよ」
これは「何でもいいよ」の裏返し。私にだけわかる、しーちゃんの優しさ。今まではその優しさに甘えて、私がしーちゃんにあげたいものを贈ってきた。手作りお菓子、店先で一目ぼれしたブリキのおもちゃ、文房具…。下忍になって自分でお金を稼ぐようになってからはちょっとだけ奮発して、ピアスとか、起爆符セットとか…。
でも今年は付き合って初めての誕生日。『彼女』になって初めてのイベント。私ももう十五歳で立派な中忍だし、ちゃんと自分で稼いでるもん。そろそろ本当に、心の底からしーちゃんが欲しいってものを贈ってあげたいな…。
………
……
…
―…最近しーちゃんが欲しそうにしてたものって何だっけ。どんな雑誌読んでたっけ…。
そんなことを悶々を考えているうちに、とうとう誕生日まであと二日となってしまっていた。彼女になったという緊張からか今回ばかりは絶対に失敗したくなくて、なかなか買いに行けない。特に欲しくないようなものをあげたくないし、期待に添えない物あげて【お前オレのこと全っ然わかってねぇじゃん=別れる】なんて方程式、絶対イヤッ!!
どうしよう、何にしよう…なんてあれこれ考えながら、唸るように待機所を後にする。すると私の後から出てきたのか、後ろから年上の先輩中忍たちの話声が耳に入った。
「私の彼氏、もうすぐ誕生日なんだけど…何あげたらいいと思う?」
「えー?あんたからだったら何でも嬉しいんじゃないの?付き合いたてだし…」
なんてタイムリーな話題なのっ!もし見知らぬ先輩じゃなかったら一緒に語り合いたいくらいだよっ!そんなことを思いながら、思わず歩く速度を緩め、後ろの方へ耳を大きくする。
「そうだけどっ!そうかもしれないけど!!…でも、初めての誕生日なんだもん。彼が本当に欲しいものをあげたいじゃん?」
そうだよねそうだよねっ!わかりますよっ、見ず知らずの先輩っ!
「まぁあんたの気持ちもわかるけどねぇ…。そしたらさ…」
ごにょごにょごにょ…
ふんふんふん…
!!なるほどっ!!
思わずぽん、と手を叩く。まさにたった今、私は(盗み聞きによって)ずっと欲しくてたまらなかった答えを手に入れたのだ。後ろで相談していた先輩も「そっか!そうするっ!!」と納得したようだ。
―…そうと決まれば、目指すはあの人たちだっ!どうか時間が合いますようにっ!!
私は先輩から(勝手に)アドバイスを受け、実行するために走りだした。
決戦の日まで、あと二日―…。