
先生の義妹であるとは、彼女が赤ん坊の頃から知り合いだ。彼やその彼女・クシナさんの彼女への溺愛っぷりはもう半端ない状況だった。だから先生亡き後、あの自来也様を師に持ち修行に励むと聞いた時は反対した。だってあの人、昔からよくムチャするお方デショ?先生がそんなコト知ったら、烈火のごとく怒るデショ?
でもさすがあの二人の義妹、オレの反対を聞かずにさっさと弟子入りしてしまった。それと同時にみるみるうちに実力を伸ばしていき、彼女が再びこの里に帰って来た十歳の頃には既に上忍となっていた。時代が時代だ。実力があり、ましてや三忍の自来也様の弟子となれば、幼かろうがどんどん上へとやられていっていた。
それでも彼女は、オレと再会すると二人と一緒に暮らしていた時のような眩しい笑顔をオレに見せてくれた。その笑顔のまま、アイツには会ったの?と聞けば「会ってはいない…」と眉間に皺を寄せ、苦しそうに俯く少女。恐らく、今のナルトの里での扱いを見たのだろう。正直、それは十歳の少女の見せる顔ではなかった。
あの事件以来、ずっと自分を責め続けている少女。
――もし二人がここにいれば、こんな状況になっていなかったはず。
――私が強かったら、ナルトを一人ぼっちにさせることがなかった。
――許してもらいたいけど、この罪は一生許されてはいけない。
そんな思いが空気だけで伝わり、それ以上なにも言えなかった。
あれから十年。ナルトは今年十六歳。彼女はもう二十歳になる。彼女はこの里に帰って来てからの十年間、ずっと彼の家の前に花を贈り続けていることを知っている。例えその家主がいなくても、お祝い事の日には必ず、ずっと…。
もうそろそろ、いいんじゃない?自分を許して、いいんじゃないか?
先生にそっくりな自慢の息子は、お前を責めたりしなーいよ…。
ハナウタ V
自来也様からの連絡で、今日ナルトが修行の旅から帰ってくることを知った。いつもならナルトが長期任務から帰って来る一報が入れば、どんなに忙しくてもオレが彼女に『連絡』を入れるのだが、今回は敢えてしない。今ちょうどアイツは暗部で帰還途中だし?今里にいないし?パックン今寝てるし?それにこうでもしなきゃ、前に進んでくれないデショ?
あれこれ理由をつけながら人様の家の屋根で愛読書片手に読みふけっていると、よく知る気配が二つ、門からこちらへと近づいてきた。日の光を一身に浴びた金色の髪は、太陽に反射してキラキラしている。
(あーあー、ますます先生に似てきちゃって……)
教え子の成長が嬉しく、また自分の先生と重なる彼を見つけて、思わず顔がにやけた。
「でかくなったな…ナルト」
「カカシ先生!先生ってばぜんぜん変わってねーってばよ」
そう言ってタンッ、と側によるナルト。
成長したんだかしてないんだか分からないそのバカさ加減に、オレは苦笑いを浮かべた。
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「ルールは前と同じ。どんな手を使ってもいいから、オレからスズを取ればいい。期限は明日の日の出までだ」
そう言ってチリン、と二つの鈴を鳴らす。途中であったサクラと共にやって来たのは演習場。第七班としてスタートした、思い出深き場所。ここへ来るともう一人の班員を思い出し、面白いくらいに沈む二人。そんな気分を無理にでも払ってもらおうと、オレは今まで開いていた愛読書を閉じ、口を開いた。
「さて、始めますか」
「へへ…今度はその本読みながらやらないの?カカシ先生」
「もう読み終わっちゃったんですか?」
そんなコトを言いつつも、本を閉じたオレの行動が嬉しい様子の二人。まだまだ可愛いなぁ、二人とも。
「楽しみは後に取っとこうと思ってね。それにまァ今回は何となく、オレも少し本気出さないといけない雰囲気だしな」
グイッ、と額宛てを押し上げ、真っ赤なそれが二人の視界に入る。
―――……二人の成長、じっくり見させてもらうよ…。
オレはあくまで少しだけ本気を出すつもりで始まった。
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どれくらいたったのだろう。辺りはもうとっくに暗く、朝日も昇る時間も近いのがわかる。二人はあの手この手で迫ってくるも、まだまだ鈴には届いていなかった。この調子じゃオレ、勝っちゃうカモ…そんな思いも浮かび始めていた。しかしこの数時間後、この鈴取り合戦はオレの予想もしない形ではあったものの、無事に幕は閉じた。
二人は間違いなく成長していた。力の部分だけじゃなく、頭脳の面でも、精神面でも。あの時赤ん坊だったコイツも、もうこんなに強くなったんだ。さぁ、次はお前の番だよ、。
そう思うと、自然と笑みがこぼれる。そしてオレはある作戦を実行に移すことにした。
「よし、頑張ったご褒美に、二人にイイ話を聞かせてやろう」
「えーー!?話よりラーメンの方がいいってばよーー!!」
そう言ってナルトは口を尖らせ、ブーブー文句を言う。帰ってきてすぐに始めた鈴取りだ、腹の虫も限界にきているのだろう。すでに辺りはうっすら、明るくなってきている。
「うるさい、ナルトッ!それより先生、『イイ話』って?」
「うん、『毎年ある少年に花を贈り続けている少女の話』…かな」
「!!!!!」
それまでブーブー文句を言っていたナルトもオレの声に反応し、動きが止まる。サクラはそれに気付かず、オレに先を進めさせようとした。
「花を?どういうことですか?」
「……」
黙ったオレを不安に思ったのか、ナルトはゆっくり顔をあげ、じっと見上げる。オレはゆっくりと頷くと、言葉を続けた。
「これはね、ある少女の悲しい話なんだ。始まりは今から十六年前、まだ少女が四歳の頃の話――………」
先生の大切な二人に、どうか明るい未来がありますように……