
水着を買いに行った次の日、オレ達はプールへとやって来た。昨日買ってやった赤いひらひらの着いた可愛らしい水着を着て、は人一倍キラキラ輝いてて…。一緒に来れて本当によかったって心の底から思った。
なのに何であんたがいるんスが、カカシさんっ!!!
キンギョソウ 【図々しい・大胆不敵】
「わぁ〜、すごい人だねぇ」
無事にプールサイドに着きビーチベッドに腰掛けると、はその綺麗なロングの髪を纏め始めた。色素の薄い白い体に真っ赤な水着が映えていて、またいつの間にかなっていたその女性らしい体つきにもすごく似合う。普段の幼いからは想像もつかなかったその光景に、さっきからオレの心臓は飛び跳ねてばかりだ。
このままじゃ無駄に緊張しちまう…。オレは緊張を解そうと敢えてから目を離すことにした。そして辺りを見回して、オレはあることに気がついた。それは沢山の野郎共の視線がにばかり向いていること。歩きながら見てくるヤツ、すれ違いざまに見てくるヤツ、あからさまにを指差してニヤニヤしてるやつ…。
はっとしてに目を戻すと、彼女は「飛び込む〜!」なんて言いながら、今にも立ち上がりプールに飛び込みそうだった。今までオレもばかり見ていて気付かなかったが、今のの可愛さはいつもの二倍、いや十倍だっ!!(決してオレの贔屓目じゃねぇー!断じて違うっ!)慌ててオレは自分の着ていた真っ白なシャツを脱ぎ捨てると、に近づいて勢いよく上からかぶせた。
「!!!ぷはっ!!どうしたの、シカマル??」
「いいから着とけ」
「え、でも今から入ろうかと…」
「いいから着ろってっ!」
「??」
わけがわからない…そんな風な顔をして見つめるを抱きしめて、オレはキッと周りを見渡した。オレの殺気を感じてか、を厭らしい目で見てきてた野郎共はバツが悪そうに視線を外していった。
一通り大事な彼女を見つめる視線を感じなくなり、そっと体を離す。はじっとオレを見つめてきてて、小首を傾げて「もう入ってもいい?」なんて聞いてくる。オレの苦労も知らずにこいつは……はぁ、とため息をつくと、「報酬だ」とい言って目の前にあった唇に軽くキスを落とした。驚いて目をまん丸くする彼女を見て笑うと、勢いよく服を脱がし、そのまま抱き上げてプールへと飛び込んだ。ぷはっ、と同時に水面に顔を上げ、けたけた笑う彼女を見てすごく幸せだって思った。
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それから一緒に泳いで、夏を思い切り満喫した。もずっと笑ってて、すごく幸せそうだ。そんな彼女の幸せそうな笑顔を見れてオレも嬉しくて、ずっとずっと二人でいたいと思った。
そんな時、何かの勢いでの使っていた髪ゴムが切れてしまったらしく、濡れた髪がはらはらと水面に浮かんだ。
「あらら、切れちゃった。確かもう一個バックに入ってるから、ちょっと持ってくるね」
「取ってきてやろうか?」
「大丈夫!すぐ戻ってくるよ」
そう言ってざばざばとプールサイドに近づきあがろうとした瞬間、の目の前に髪ゴムを持った手がすっと出てきた。
「あ、ありがとうございま…!?」
その手の先にある顔を見て、オレもも固まった。ちょ、ちょっと待て…確かに振り切ったはずだし、どこのプールに行くとも言ってなかったのに…まさか…まさかっ!?
「どういたしまして。、お兄ちゃんが結んでやろうか?」
何であなたがいるんスか、カカシさんっ!!
ものすんごいデレデレな笑顔で立つ長身の男性…そう、の義兄であるカカシさんがそこにはいた。今度こそ邪魔されないように朝早くに出てきたのに、何でっ!?
「お兄ちゃんっ!何でここにいるの!?」
「ちょっとね。それよりも、朝起きたらもういないんだもん、お兄ちゃんどれだけびっくりしたと思う?」
「ご、ごめんなさい…朝早くに出発するから起こしちゃダメかなって思って…」
「しかもどこのプールとも言わずに行っちゃうんだもん、心配したんだからっ!」
「ご、ごめんなさい」
ひょいっとプールから抱き上げられる。
――おいこら、何勝手に抱き上げてんだっつーの!!
オレはざぶざぶとプールサイドへと移動する。その間にもカカシさんはのほどけてしまった髪をすいている。
「でもどうやってここが分かったの?」
「が『無理矢理』誰かさんに連れて行かれたんじゃないかって心配してたら、偶然会ったナルトのやつが 『シカマルとちゃん、今日木の葉リゾートプールいってんだってばよっ!オレもプールに行きたいってばぁぁ〜!』なんて言ってて。ナルトのヤツがあんまりにも行きたい言うから、『仕方なく』連れてきてやったわけ」
ナルトのヤツ、余計なコト言いやがって!帰ったら絶対縛るっ!!しかも無理矢理じゃねーっつの!誘拐犯か、オレは!!
「そっか。で、そのナルトは?」
「ああ。今頃きっとサクラとウォータースライダーにでも行ってると思うよ」
「そっか。部下を連れてきてあげるなんて、相変わらず優しいね、お兄ちゃんっ!」
「でしょでしょ、もっと褒めてよ!で、オレは一人ビーチサイドで本でも読もうと歩いてたら『偶然』お前を見つけてさ」
絶対『偶然』じゃねーだろーがっ!嘘つくなっ!!
オレもようやくプールサイドへと辿り着き、ざばっ、と手をつき水から上がる。その瞬間にオレはを抱き寄せ、カカシさんとの距離を取った。カカシさんはオレにするどい視線を飛ばす…かと思えば、今度はをとろけそうなくらいに優しい眼差しで見つめる。このシスコン兄貴っ!!いい加減妹離れしろってのっ!!
バチバチと冷戦が続く中どうやってこの場から上手く立ち去ろうかと…IQ200以上の頭をフル回転させて案を練る。しかし先手を打ってきたのは、何としてでもオレから愛しの妹を引き離そうとするカカシさんの方だった。
「ねぇ、昼飯は?」
「これからだよ。お兄ちゃん達は?」
「まだ。それでね、。今日ナルトは、今までにないくらいサクラを楽しませようとすごい頑張ってるわけよ。だから昼飯も二人きりにさせてやろうと思ってるんだけど、そうしたらオレ一人になっちゃうわけ。一人はすごくすごく淋しいから、一緒に食べ…」
「それは無理っスね、カカシさん。オレ達だって『二人で』楽しんでるトコなんすよ」
オレはカカシさんがすべて言いきる前に言葉を発した。このまま二人に会話をさせてたら、は良いように丸め込まれるに決まってる。昼飯を一緒に?図々しいにも程があるだろっての。勘弁してくれ!
それにカカシさんの場合、その後も絶対オレ達……もとい……もとい『オレの』から離れないだろーがっ!!
「オレはお前に聞いてない。に聞いてんの」
「の彼氏で、今日は『朝から』と『ずっと二人で』楽しんでるオレにも拒否する権限くらいあるはずですよね」
「ないない、全然ない。とりあえずお前は可愛いの彼氏なんかじゃないって何べんもいってるデショ」
「こっちこそオレはこいつの彼氏だって何回も言ってんだろーがっ!!」
ぎゃーぎゃーいつもの言い合いが始まる。は慣れているからかオレの元をするりと離れると、財布片手にビーチベッドにあったオレのシャツを上から被る。その姿を見て、カカシさんは悲鳴を上げた。
「ぎゃぁーー!!っ、それ、誰のシャツ着てんのよっ!!!」
「へ?誰のってシカマルのに決まってんじゃん。今日も言い合いが長くなりそうだから、その間にお昼ごはんでも買いに行こうかと」
「そ、そそ、そんなふしだらな恰好しちゃダメっ!!お兄ちゃんのパーカー着なさいっ!!」
「…ふしだらって……」
の苦笑も無視してカカシさんは自分の着ていたパーカーをシャツの上から着せると、これまた勢いよくチャックを上げた。しかし良かれと思って着せたカカシさんのパーカーは、実際オレのシャツ以上にダボダボで…。
大き目のパーカーから出る白くて華奢な足は、男の想像力を掻き立てるには充分すぎるほどの威力があって、その何とも言えない姿を見てオレもカカシさんも噴き出した。
「「ぶっっ!!」」
「ちょ、きたなっ!!!!!」
は少し引き気味で言うと、じゃ、と言ってそのまますたすたと店の方へと歩き出した。バカ、そんな恰好で一人で歩くなってのっ!!!
「待てよ、オレも行くって!」
慌てて財布を握り締め、の後を追う。後ろの方でカカシさんの声が響いた。
「ちゃん、お兄ちゃん焼きそばがいい〜!」
その答えにオレは期待した。断れよ、断れよ…「買ってくるか、バカ兄貴!」くらいの勢いで断れよ…。まぁそこまで言わなくとも、とにかく断ってくれよ…。しかしオレの願いもむなしく、ピーチサイドに響いた言葉は…
「りょーかい、一緒に食べようね!」
一人は淋しいもんね、と振り返って笑顔で言うとは対照的にオレの心はずんっ、と沈んだ。 、あんな言葉嘘に決まってんだろ…。昼飯、ナルトがサクラの為に頑張るわけねーだろーが。サクラだってナルトより高給取りのカカシさんのおごりを期待してるっての。それを丸のみしちまって…こいつのブラコンも大概にせぃっての!!
キンギョソウのもう一つの花言葉、それは『清純な心』
…お前らまとめてキンギョソウ兄妹だ、こんにゃろうっ!!
(いやー、それほどでも〜〜)
(褒めてねぇよ、バカ兄貴っ!!!!!!)