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今日は冬晴れ。青空に澄んだ空気が気持ちいい。
春の匂いも仄かにしていて、私は空に向かって伸びをした。

Diamond lily 〜Smile T〜


「ピクニック?」
『そう、ピクニック!』

 この名案は絶対に楽しい!と思い、一護の部屋に無理やり入り込んだ。彼は今期末試験中であり、ここ数日はかなり真面目に勉強している。一護は見た目によらず常日頃から勉強はしっかりとしてるので、今更そんなのいらないじゃん!遊ぼー!と騒ぐ私を追い出して、早数日。私と過ごせるのはあと数週間しかないんだぞー!と言いたくもなったが、私にとって数週間でも彼の今のこの【勉強】というスキルは一生物なのだ。邪魔してはいけない。そう思い我慢してきた…が、もうそろそろテストも終わるし、提案くらいなら良いだろうと思い、今に至る。

『ちょっと前に約束したじゃん!お父さんと遊子と夏梨と一護と、みーんなで行こうって!』

 ね、どう?どう?!そう一護の顔を覗き込む。しばらくお互いじっと見つめ合っていると、一護は柔らかく微笑み、私の頭を撫でてくれた。

「わかった」
『!!』
「今週末天気いいみたいだし、予定聞いてみるか」
『うん!ありがとー!』

 楽しみだなー!と部屋中を縦横無尽に走り回り、どこ行く?なにする?いつも通りバドミントンやる?と一護の隣で騒ぐ。すると突然首根っこ掴まれ、うるせーという言葉と共に部屋から投げ出されてしまった。まったく、反抗期か!


********


「「「ピクニック…?」」」

 その日の夕食に、約束通り一護はみんなに提案してくれた。食卓には相変わらず5人分の箸や茶碗が並んでいて、私は自分の席につきながらうんうん、と頷く。

「あぁ。お前ら、アイツと約束しただろ?」
「…うん、でも…」
も行きたがってたし、今度の日曜にでも行かねーか?」
「…」

 一護の提案に遊子も夏梨も、少し困惑しているようだった。お父さんは黙々とご飯を食べている。まだ幼い彼女たちは姉を亡くしたショックから、まだ立ち直れていない。その証拠に、あの日から私の大好きな【本当の笑顔】を見せてくれていない。そして今も、膝の上でぎゅっと握りこぶしを作り、涙をこぼさないよう堪えていることも知っている。私はそんな小さな二人の姿に泣きそうになりつつ、席を立つ。そして一護に一言お願いを告げると、彼は驚いた顔をした。

『お願い、一護。二人とも、きっと楽になるから』

 そういうと私は妹たちの後ろに移動した。そしてそのまま両手を彼女たちの頭に置き、そっと撫でた。すると目の前でご飯を食べているお父さんの口元が、少し微笑んだ気がした。気のせいかな…?
一護は小さくため息をつくと、涙を堪えて俯く小さな2人に言った。

「今、お前らの後ろにいるぞ」
「「…え?」」
「すげーにこにこしながら、お前らの頭を撫でてる」

 二人はすごい勢いで振り向き、自らの手を頭に置く。感じることは出来ないかもしれないけど、少しでも何かが伝わって欲しい。すると見えていないであろう二人の瞳から突然大きな涙の粒が溢れ出し、一護と今まで黙っていたお父さんが慌てた。

「遊子!夏梨!なななな、泣くな!!一護、、お前ら大切な可愛い妹たちを泣かせたなっ!!」
「だーー!デケェ声出すな、バカ親父っ!しかもは今そっちじゃねー、こっちだ!」

 恐らく私に言ったのであろうが全然違う方向を見ながら大きな声で叱るお父さんと、その姿につっこむ一護。そんな二人を余所に、私は二人と同じ目線になるようかがみ、まとめて抱き締める。遊子も夏梨も、今まで我慢していたものが堰を切ったかのように溢れ出し、止まらない。
 そう、私は敢えて【私がここにいる】と言うことを一護に伝えてもらった。見えない彼女たちに伝えるのは辛さを助長させるだけなのは重々承知していたけど、私の目の前で泣いてもらうのが一番良い気がしていたから。

姉…っくぅ」
『なぁに、夏梨』
「何で…何で死んじゃったの?ずっと一緒にいたかったのに…」
「お姉ちゃん、帰ってきてよ…っくぅ…」
『ごめん…ごめんね、遊子。夏梨』

 私の言葉は通じないのは分かってる。返事の代わりに、泣き止まない二人をぎゅっと抱きしめた。少しでも何かが伝わるように…。すると遊子と夏梨が突然驚いた表情で顔を上げ、見えないはずの私をじっと見つめた。

『…遊子?夏梨?』
「今、姉の匂いがした」
「うん、した!」

 そういうと2人は鼻をヒクヒク動かして、一生懸命私の存在を感じようとしてくれる。その姿が切なくて苦しくて、私も溢れた涙を拭った。