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 痛い…心が痛いよ、すごく。キミのことを考えるとものすごく痛くて苦しくて切なくて、涙があふれ出す。それでも前に進まなくちゃいけなくて、前に進むには一緒にいることが出来なくて…私はキミに最初で最後の嘘を吐く。

ごめんね、ごめんね…傷つけてごめんね。 それでも私は、ずっとずっとキミのことを―…。



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「は?お前、本気で言ってんの?」

 いつもよりも眉間にある皺の数を増やして、睨みつけるキミ。そう、それはいつも敵に見せているような、そんな鋭い視線。私だって言葉にするの辛いんだから、そう何度も何度も聞かないでよ、お願いだから。それでも笑顔を作って、何でもないふりをして何度も練習した通りにこう答えるの。

「そ、他に好きな人が出来たの。だからもう終わりにしよ、シカマル」

にこっとしてすんなり言う。声も手も震えていない、震えさせちゃいけない。最初で最後のこの嘘だけは、何としてでも貫き通す…貫き通さなくちゃ、いけないんだから。
 その平然とした私の態度にシカマルはさらに怒りの表情を強めて、ドンッと私の体を壁に押し付けた。片手で肩をぐっと押して、もう片方は私の耳の横。怒りの感情であってもキミを近くに感じることが出来て、今後一切感じることが出来なくなるキミの感情が嬉しくて…余計に涙が溢れそうになる。

「だから別れるって?ふざけんなっ!!」

耳の横に置かれた手がドンッ壁を殴り、思わず体が跳ね上がる。じっと見つめる澄んだ瞳は怒りに揺れていて、それでも十分綺麗だった。ふとその腕を見ると小さく小さく震えてた…肩も頭も、私の肩をぐっと掴んだこの腕も。

「ふざけてなんかない。本気だよ」
「…誰だよ、そいつ」
「教えない」
「っっ!!誰だって聞いてんだよっ!!」

 叫び声と共に肩に置かれた手に力を込められて、チクリと痛みが広がる。思わず目をぎゅっと閉じてしまった私がゆっくり目を開くと、怒りではなく悲しそうな瞳を揺らして私を見つめてた。お願い…そんな目で私を見ないで…。

「なぁ、嘘だろ」
「…本気」
「嘘…だろ…」
「…」
「…嘘だと言えよ。頼むから…」

 そう言うと不安そうに揺れていた瞳がどんどん近付いてきて、私の顔の横で留まった。私の肩で、小さく小さく何度も唱える。

…頼む、離れるな。俺を置いて行くなよ…………

 それは本当に小さな呪文のように、何度も何度も繰り返される。震える体も伝わる暖かな雫もシカマルの悲痛な叫びに聞こえて、何度も何度も抱きしめそうになる腕を無理矢理押し止めた。
お願い…何度も何度も、その愛しい声で私を呼ばないで…。
 辛くて切なくて苦しくて、もう限界だった。このままここにいたら涙が溢れてしまう。小さい頃からずっと一緒だもん、すぐにでも感情がばれてしまう。何度も何度も優しく抱きしめてくれた手。いつも優しくキスをくれる前そっと私の頬に手を添えてくれていた、大好きなシカマルの手。今すぐその震える手を握り締めて抱きしめたい感情を押し込めて、覚悟を決めてバンッと叩き落とした。驚いたような悲しい瞳で見つめるキミに、前に『好きだ』って言ってくれた笑みを浮かべて言い放つ。

「やっぱ年下のお守りは無理!じゃーね、シカマル!」



…お願いシカマル、私を嫌って。嫌って恨んで憎んで…そして忘れて。私を忘れて新たに素敵な恋をして、絶対絶対幸せになって。キミが幸せになるのなら、私は何だって出来るのだから―。



ハナニラ 【悲しい別れ】





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いつもはあとがき的なのは書かないのですが、悲恋は苦手なのでこれだけは書かせてください!
実はヒロインちゃん、この後二度と帰れぬ任務に就くのです。しかもシカマルの立てた作戦によって…。
そんな背景があるとご認識いただけると、また違った印象になるかもしれません。