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「シカマルー」
「あ?」
「シカマルってばー」
「何だっての」
「シーーカーーマー…」
「うるせぇ!」

 ベッドにうつ伏せになりながら何度も何度も呼んでたら、ついに彼氏であるシカマルに怒鳴られた。でもシカマルが悪いんだよ?折角の二人揃っての休暇なのに、部屋に遊びに来た私を一目見ていきなりこんな態度なんだもん。返事はしてくれるのに、呼んでも呼んでも目線はずっと将棋盤。全然こっち向いてくれない。

…私、何か気に障るようなことしたっけ?

いやいやいや、久しぶりに会えたんですよ?大好きなシカマル相手だよ?するわけがないじゃないですか。無罪の自信はあるのだけど、まるで私を遮るかのように向けられた冷たい背中を見つめると、やっぱりどんどん不安になってくる。

「ねーシカマル、私何かした?」
「…してねぇ」
「じゃあ何でこっち向いてくんないのさ」
「…」

 そうやって言葉に出してもシカマルは私に背を向けたまま、一向に答えを聞かせてくれそうにない。淋しいし怒鳴られるし意味分かんないしで、何だか泣きたくなってきた。こっちは一緒に過ごせる休暇をすごく楽しみにしてたのに。会えなかった分、たくさんお喋りしたかったのに。思わず目の前にあった枕に顔を半分うずめた。

「シカマル…いい加減こっち向いてよ」
「…」
「ちゃんとシカマルの顔見てお喋りしたいよ」
「…」

これだけ訴えても頑なにこっち向いてくれない。なんで?なんか変だよ、シカマル。いつもはすっごく優しいのに、なんで?私は悲しさと同時に、段々怒りも覚えてきた。

「バーカ。シカマルのバーーカ!」
「……」
「もういいっ!ナルトとラーメン食べに行…!!」

 その場を去ろうと勢いよく起き上った瞬間あっという間に視界が逆転して、目の前にあるのは真っ白な天井と、大好きな彼。指を絡めて感じる暖かなぬくもりと、近くに感じる君の吐息。あまりの突然の変化にびっくりした。やっと見れた念願のシカマルの顔は眉間に皺が寄ってて、やっぱり怒ってるように見えた。

「…何さ」
「…お前さ、今どんな恰好かわかってんの?」
「は?」
「そんで今、どこにいるかもわかってる?」
「??」

 今の…恰好?私はまじまじと自分の今の状態を思い出す。

 日頃の疲れがたまっていたのかお昼まで寝ちゃって、シカマルとの約束に送れそうだったからシャワー浴びてそのまま出てきた。おかげで髪は濡れたままだし、いつもはちゃんと結ぶ髪も下ろしたまま。長い髪は背中に当たっちゃってるけど、夏真っ盛りだし別に風邪を引かない自信はある。仮にも中忍ですよ?バカにしないで!
 あ、もしかしてこのキャミソールが気に入らなかった?オレンジ色で紐の部分がビーズになってるし、夏っぽくてお気に入りなんだけどな。胸元とかちょっと大人な感じがしてるし。それともこのジーンズの短パン?ちゃんと洗濯したばっかだから綺麗だと思うけど、気になっちゃったとか?
 …あ、もしかしてシカマルのベッドなのに勝手にでごろごろリラックスしちゃったこと!?そうだよ、絶対これだよ!だってベッド上がってごろごろし出すまでは怒ってたけど、まだこっち向いてくれてたもん。

 ごめん、シカマル。でもさ、シカマルもベッド使いたかったんなら言ってくれればいいのに…。

「…ごめんね」
「……はぁ…わかりゃぁいぃんだよ、わかり…」
「シカマルもベッド使いたかったなんて思ってなかったんだもん」


・・・・・・・
・・・・・
・・・


 ホントごめん、今すぐどくからそこどいて、なんて間抜けなコトを言う。アホかこいつは…いや、アホなんだな。わかってはいたけど、こいつは俺の想像以上のアホだ。俺は今まで何とか総動員させていた【理性】というものを一気に開放し、彼女の両手を耳の脇でしっかりとベッドに押さえつけた。

「シカマル?どいてくれないと譲れな…!?」

 のアホらしい言葉は最後まで放たれず、俺は少し乱暴にその甘くて旨そうな桃色の唇に自分のものを合わせた。今までの啄ばむ様な優しいものではなくて、口からコイツをすべてを食べてしまうかのような、そんな口づけ。慣れないそれに苦しくなって顔をずらすの顎を片手で持ち上げ、逃がすまいと更に深く口づけした。その拍子に緩く絡み合っている指をきゅっと握り返され、少し理性を取り戻す。
 小さなリップ音と共に唇を離し、彼女を見下ろす。じっと目の前の彼女を見ると、顔を真っ赤にしての大きな瞳が潤みながら睨んでいた。少しいじめすぎたかもしれないと、ふと思う。けれど眼下に広がるまだ少し濡れた広がる絹のような髪と、露出の多い服から見える真っ白な柔肌の誘惑に勝てるはずもなく、俺は再び体をかがめ、耳元で囁いた。

「無自覚なお前がわりぃんだからな」

そう言って俺たちは、再びキスの海に溺れて行った。



無自覚な姫君