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日付も変わり12月25日、誰もが心躍るクリスマス。外はシンシンと雪が積もり、辺り一面を銀色の世界に染めている。
そんな静かな夜だったのに突然ドンッ!という大きな音が、一件のアパートに響き渡った。そこの住人である6歳のナルトは、その大きな音にいわずもがな目を覚ます。

「〜〜…なんだってばよぅ………」

眠い目を一生懸命こすって玄関の扉を開ける。何もないと思っていた見慣れたはずの玄関先にいたのは、見慣れない同い年くらいの女の子。扉の前で尻もちをついた形で、何やら痛そうにお尻あたりを撫でている。
こんな時間にいったいなんだっていうんだ。

「…お前、誰だ?」
「あたし!サンタ見習いです!」
「…え?」

これはクリスマスに起こった、小さな小さな奇跡のお話…

サンタの贈り物


時計の針の音だけが部屋に響き渡る。ナルトは「とりあえず寒いから…」と、座り込んだ少女…にそっと手を伸ばす。するとは嬉しそうに笑顔を浮かべ、「ありがとう」とその手を握る。そしてこの温かな室内へと案内したのは、今からたった数分前の出来事だ。
きょろきょろと室内を見渡している。彼女の恰好を良く見ると、真っ赤なポンチョに真っ赤なスカート。襟元とボタン、そして短めのスカートの裾には真っ白な綿のようなものがふわふわとついている。頭には真っ赤な帽子を被り、同じように真っ白な綿が縁を沿ってついている。そして真っ白な丸い綿が一つ、垂れさがった帽子の先にちょこんとあった。その格好はまさしくこの時期に街中でよく見かける『彼ら』そのもので……。
ナルトは先ほどまでの眠気も一気に飛び、に話しかけた。

「なぁ、なぁ!!お前『サンタ見習い』って言ってたよなっ!?それ、本当なのか?!」

目をキラキラと輝かせながら尋ねるナルト。そんな彼と向かい合って座っていたは、柔らかく微笑むと小さく頷いた。

「ホントだよ!今は『見習い』だけど、いつかは本物の『サンタ』になるんだから!」
「すっげー!!サンタ、いるんだ!」
「失礼な、いるよ!…で、ところでキミ、名前は?」
「オレ、うずまきナルト!将来火影になる男だってばよっ!!」
「そっか、あなたが…よろしくね、ナルト!」

一瞬驚いたような顔を見せただが、その後は嬉しそうに笑顔を浮かべるとそっと手を差し伸べる。『握手』という初めての行為にナルトは最初戸惑ったが、恐る恐る手を伸ばしてみる。その手をはきゅっと握ると、ナルトは困ったように…でもすごく嬉しそうに強く握り返した。

「あ、あと助けてくれてありがとう。あのまま外にいたら寒くて凍え死んでたかも」
「はははっ!よろしくな、!」

年齢もほど近い小さな二人。すぐに打ち解けあったようだった。


********


「でも何で『サンタ見習い』がこんなところにいるんだってば?」

二人で並んで座りながらナルトの入れたジュースを飲んでいた時、ナルトがふと疑問に思ったことを口にした。今日はクリスマス。目覚めれば子どもたちがプレゼントを目にすることを心から楽しみにしているだろう。『サンタ見習い』なら大忙しな日に違いないのに…。こんなところで自分とのんびりジュースなんて飲んでいていいのだろうか。
そんなナルトの疑問をすくい取ったのか、少し言いにくそうには口を開いた。

「それがね、プレゼントを届けてる途中に先頭を走ってたサンタさんのそりを見失って、トナカイ達が喧嘩を始めちゃって言うコト聞いてくれなくなって…右へ左へ暴れて落っこっちゃったの…」

予想以上の大雪のせいでルドルフの鼻が見えなくなっちゃうんだもん、誰のせいでもないのにさー……と苦笑いを浮かべる。そんな彼女の言葉に、さらにナルトは目を輝かせる。

「ルドルフって…もしかして…」
「サンタの家族の中でも優秀なトナカイの名前なの。確かみんなのいう『真っ赤な鼻のトナカイ』だっけ?」
「すげぇーー!ホントにいるのか!!」

今よりもうんと小さい頃から、この時期になると三代目が必ずしてくれる赤鼻のトナカイの話。街中を歩けば、そこらじゅうで流れているあの歌。友達なんていないからわからないけど、クリスマスはみんなで美味しいものを食べて、あの歌をみんなで楽しく歌うんだって三代目が教えてくれた。そして夜にはサンタクロースがルドルフに乗って、子どもたちにプレゼントを配るんだって…。

「それにしても大変だろ、子どもたち全員のプレゼントを届けるなんてさ。プレゼントの見分けとかちゃんと付けられるのか?」

サンタといえばあの大きな袋。その中に沢山のプレゼントが入っていたはずだ。その話をするとハッと驚いた顔をしただが、その次にはんーーーと唸りだした。一人百面相をしている彼女をじっと見つめるナルト。表情がコロコロ変わる彼女が面白くて可愛らしくて……気付いたら笑みを浮かべながら見つめていた。
しばらく一人唸っていただが、ナルトをじっと見つめて一つ頷くと口を開いた。

「ナルトには教えちゃおう!ナルト第1グループだし、特別だよっ!!」
「第1…グループ……?」

何やらわけのわからない言葉が出て来た。そんなこともお構いなしに、は「いーい、内緒だよ?」なんて言いながら言葉を続けた。

「実はね、サンタの村には毎日沢山の手紙が届くの。『この子がおばあさんを助けました』とか『今日はあの子がごめんなさいを言えました』とか。それを見て、サンタさんやあたし達が子どもたちを細かくグループ分けしてるんだ」
「グループ分け…」

真っ赤な服を着た、恰幅の良いサンタクロースが一生懸命手紙を分けている姿が目に浮かぶ。その周りをちょこまか忙しそうに駆けまわるを思い浮かべて、思わず笑みを浮かべる。

「でね、その『プレセントの見分け』なんだけど、当日に袋に入っているのってすごく数少ない第1225グループの子たちの分だけなの。その他のグループの子どもたちには、その時『一番欲しい』って思っているモノをその場で贈ってるから」
「12…25?」
「そう。その第1225グループ、実はその年とーーーっても悪い子だった子達の集まりなんだ!だからお仕置きで前もって準備しておく『全然欲しくないものをプレゼントする』ってのが決まりなの!」

お勉強セットだったり、派手なパンツセットだったり…と、指折りながらニヤリと笑みを浮かべながら言う。よくわからないが、恐らく自分は第1グループという所に分けられているようだ。 そして第1225グループではないので、自分もほとんどの子と同じように『一番欲しいもの』が貰えるらしい。

「でも『一番欲しいもの』って…どうやってわかるんだってばよ?父ちゃんとか母ちゃんいる家はサンタ宛てに手紙を書いてそれを父ちゃんたちに渡すって聞いたことあるけど、オレ父ちゃんも母ちゃんもいねーし、手紙とか書いてないってばよ?」

先ほどまでのトーンよりも、少し低めに俯くナルトの声。不安であると同時に『悲しさ』『淋しさ』もにじみ出ている気がする。 はそんなナルトの顔を覗きこむと、ニコッと笑いかけた。

「そんなの簡単だよっ!実は手紙なんてなくても、サンタ見習いは見たい子の手を握って目を閉じると、自然と伝わってくるの。 それが別のプレゼント袋に生まれてくるんだ!例えばこうやって……」

そう言うと突然、向かい合うように座り直した。そのままそっとナルトの手を取りきゅっと握ると、静かに瞳を閉じた。
一方ナルトは三代目以外の人間に初めて手を握られ、瞬く間に顔に熱を感じた。ひどく落ち着かないし、目が泳ぐ。でも初めて感じる柔らかさと温かさに、『離したい』なんて思いは湧き上がらなくて…。
でも次の瞬間、何かが扉を掻く音が部屋に響き、ハッとした。ナルトは繋がれていた手を勢いよく離し立ち上がると、一人扉へと向かう。扉を開けると、目の前には見たこともないくらい大きな動物…トナカイが数匹いた。そして一言「が世話になってねーか?」と声をかけられ、そのあまりにも現実離れした世界に、ナルトはただただ目をパチパチさせていた。


*********


「はいっ、次行こう!」

トナカイ達が迎えに来てくれたおかげで、仕事を再開できた。だが今は一人で作業しているわけではない。ナルトが手伝ってくれる事になったのだ。そんなナルトもそりにあった真っ赤な衣裳に身を包み、気分は『サンタ見習い』の一員だ。初めての作業、初めて『他人』と行うお仕事……それだけでナルトはすごく楽しくて嬉しくて、これまでにないくらい一生懸命彼女を手伝う。

「待った!こっちに赤ん坊がいるぞっ!」
「おぉっと、忘れてた!この子先週生まれたばっかでノーマークだったよ」
「まったく、ほんとは慌てん坊だってばよ」
「なにおぅ!失敬なっ!!」

口では楽しそうに言い争いをしながらも、そっとその赤ん坊の手を取る。そして目を閉じしばらくすると、ナルトの持っている空のはずのプレゼント袋に重みを感じる。そう、それこそがこの子が『一番欲しいプレゼント』というわけだ。ナルトはプレゼントをゆっくりと取り出すと、赤ん坊の枕元に優しく置いた。

二人はあーだこーだ楽しく言い合いをしながらそりに乗って駆けまわり、木の葉中を駆け巡る。大雪のはずなのにそりの中は不思議と温かかった。ずっと前からの知り合いだったかのように、二人は息の良いコンビネーションで次々とプレゼントを置いて回った。

―さくら色の髪の女の子には可愛らしいお人形。
―クリーム色の髪の女の子には可愛らしい髪留め。
―金色の髪のぽっちゃりした男の子にはお菓子の詰め合わせ。
―黒髪の男の子には将棋本。

里で何度か見たことのある、同世代の子どもたち。でも、友達ではない。友達になりたいけど…でも、友達じゃない子達。ナルトはその子どもたち一人一人に淋しそうな笑顔を向けていたことを、は気付いていた。そしてそんな姿を見て悲しくなる心を紛らわそうと、わざと明るく声をかけた。が笑って声をかけると、ナルトも自然と笑顔となる。その笑顔が嬉しくて、気付くとも笑顔になる。年相応にぎゃーぎゃー騒ぎながらのプレゼント配りは、ナルトにとってもにとっても今までで一番楽しい時間となった。


********


「ねぇナルト。さっきあたし『サンタの村には毎日手紙が届く』って言ったじゃん?」
「おう」
「実はナルトの様子を知る手紙、毎日届いてたんだよ」
「…え?」

すべてのプレゼントを配り終え、ナルトの家へと帰って来た二人。外に出ていた時は物珍しさから目は冴えていたが、幼いナルトは慣れない夜更かしに眠気も限界。帰ってきてすぐにベッドへと潜り込んでいた。
そんなナルトの横には、ベッドの端に腰掛けてナルトを見つめている。眠るまで傍にいて、というナルトの願いを聞き入れてそっと頭を撫でている。柔らかく髪を梳きながら、優しい声が耳を心地よく通っていく。

「その手紙にはね、木の葉の里には一人でずっと頑張ってる、すごくいい子がいるって。毎日いじめられても、真っ直ぐに立ち上がれる強い子がいるって」
「…」
「そしてその子は、両親がいなくても優しくて、己を決して見間違うことの無い子だって、いつもいつも書いてあったよ」

頭に触れていたはずの温かな手は、今度は胸元にそっと置かれる。そして一定のリズムで優しく叩かれ、あまりの心地よさにナルトは眠りたくないのに瞼が落ちる。眠ってしまったらは帰ってしまう…そう分かっているのに、自分の意志とは裏腹に眠ってしまいそうだ。

「だからずっと会ってみたかったんだ。今日はありがとう。メリークリスマス、ナルト」

ナルトの一番欲しいもの、絶対届けに来るからね。そう言う彼女の可愛らしい声を最後に、ナルトは深い眠りへと落ちて行った。


********


ハッと目が覚め、勢いよく体を起こす。朝日が昇り、小鳥のさえずりが大きく聞こえている。昨晩の大雪が嘘のように晴れ、明るい光が部屋に入り込んでくる。ナルトはしばらくボーっとしていたが、昨夜のコトを思い出してベットから飛び出した。
昨夜彼女が他の子どもたちに贈ったプレゼントは、みな枕元に置いていた。でも自分の枕元には何もなかったので、部屋のどこかに置いてあるのではないかと探しまわる。でも贈り物らしいものは何一つ見当たらず、いつも通りの朝を迎えているだけだった。

「夢だった…?」

夢…そう、夢であったに違いない。なぜならもし現実なら、自分の『本当に一番欲しいもの』は箱になんか入るものではないのだから。自分が今『本当に一番欲しいもの』は、いくらサンタクロースとて、到底贈れるはずないのだから…。

「オレが一番欲しいもの…それは…」

一人考えていた時、突然トントントン、と扉を叩く音が響いた。その音に驚きもしたが、夢の中で昨夜彼女が現れた時のあの音と比べれば扉を叩く音なんて可愛らしいもんだ。無意識に笑みを浮かべながらそんなコトを思いつつ、そっと扉を開け――固まった。
目の前には夢だと思っていた少女が立っていた。相変わらず真っ赤な衣裳に身を包み、真っ白なふわふわを付けていて…。何より昨夜と同じ、温かで柔らかな笑顔を自分に向けてくれていた。

「おま…」
「プレゼント、届けに来ました」
「え?」

突然の出来事に固まっているナルトを余所に、目の前に立つは柔らかく笑っている。そしてその可愛らしい声を鈴のように響かせながら、ナルト目がけて元気よく言い放った。

「ナルト、あたしと『友達』になってください!」
「!!」

一番本当に欲しかったもの―…それは…

「ナルト、返事は?なってくれるの、くれないの?」
「…おうってばよっ!!!」

心から一緒に笑える、大切な友達――