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旬野菜いっぱいの炊き込みご飯に、数種類の根菜をふんだんに使った味噌汁。
肉は一切使用していない色鮮やかな野菜の炒め物に、数種類の生野菜スティック。
極めつけに「これ見ようっ!」なんて言ってつけ始めた、稲川なんちゃらの怖い話のDVD…

ー…オレ、何か怒られるようなことしたか…?

カタクリ −嫉妬−


 暗部の任務を終えた明け方、真っ直ぐ彼女の家に向かう。三つ年下の彼女も自分と同じく暗部に身を置く忍だが、今日アイツは任務がなかったはず。いつもならまだ眠っているはずの時間帯なので、彼女の愛おしい寝顔を見るため森を一気に駆け抜けた。

 だが家に入るや否や、起きていたらしいはオレを見るなりいつもの「おかえり」の言葉もなく、代わりに鋭い瞳でキッと睨み、そのままドスドス音を立ててキッチンへと消えて行った。機嫌でも悪いのだろうか…。とりあえず彼女の後に続きキッチン横を通りダイニングに行くと、今度は次々と食卓に並べられていく料理たち。いつもの朝食と比べると、かなりヘビーなものばかりだ。しかもそのどれもが野菜づくしで少々冷や汗を流していると突然ドンッという音と共に最後にラーメンが置かれ、怖くもない睨みと共に声が響き渡った。

「ナルトはお野菜、嫌いだよね?」
「…いや、そんなことない気がしなくもなくも…」
「嫌いだよねっ!?」
「…はい、嫌いです…」

 いつもなら「好き嫌いは認めませんっ!」なんて言って怒られるから「そんなことない」って嘘でも言おうとしたのに、今日に限って何故か『嫌いである』と認めさせる。オレは第六感からか無意識のうちに手を握っては膝の上に置き、さらには正座で姿勢を正した。そして彼女の次の言葉を待つ。

「お野菜よりも、ラーメンの方が好きなんだもんね?」
「…まぁ…好きっちゃ好きです…が、野菜も食え…」
「野菜なんかよりラーメン大好きだよね?合ってますよね?」
「…はい、間違いありません…」
「それに、怖い話だって嫌いだよね?」
「…はぁ、嫌いってかあんま好きじゃね…」
「『まぁ』とか『はぁ』じゃなくって『嫌いだよね』っ!?」
「…はい、すみません…」

 わからない……が何を求めているのか、さっぱりわからない…。一体どう答えるのが、今の彼女のとって『正』なのか…。さっきとは違う意味で冷や汗を流し始めるのを背中に感じる。そんなオレをはじっと見つめてくる。重く苦しい沈黙が二人を包み込む。
 しばらくしてはプクッと頬を膨らますと、キッと睨んで突然言った。

「…そうだもん、ちゃんとわかってるもんっ!!」
「…は?何だよ、いきなり」
「もういや、腹立つっ!今日は自分の家帰ってっ!!」
「はぁぁぁ〜〜〜??」
「じゃあねっ!また連絡する!!」
「おい、ちょ、っ!?」

 ぐいぐい外に押し出されたと思ったら、そのままの勢いで部屋の外に押し出された。バタンッ!という音と共に閉じられた、いつもと同じ紺色の扉。オレはさっぱりわけがわからず、ただた呆然とその扉の前に立ち尽くしていた。

........
.....
...

 その日の夜、今朝のの様子が気になったナルトは、暗部の待機所へと足を向ける。今日自分は休みであるが、彼女は休みではない。暗部の待機での任務が入っていたはずだ。普段は自分とシカマル専用の部屋に真っ直ぐ向かうのだが、今日はを一目見ようと、一般の暗部待機所へと向かった。

 待機所の前へ到着すると、中から話し声が聞こえてきた。キャッキャと高めの声が複数することから、女の暗部数名のようだ。その中に目的の人物―…もとい白兎(ハクト)の声はなかったがチャクラは室内に感じられるため、ナルトはその場で足を止めて様子を見ることにした。

「やっぱり総隊長様が一番恰好良いわよねぇ〜」
「またその話?昨日も同じ話してたじゃない」
「あんた、総隊長のこと本気で好きでしょ?」
「もちろん!あのこげ茶色の髪・部下を思いやる冷たいようで優しい心、あの何とも言えない声…すべて好き!今スグにでも総隊長の彼女になりたいわっ!」
「はいはい。藍馬の総隊長フリークっぷりはよぉ〜くわかりました!」

 きゃはははっ!と明るい声が響く。その声の主は最近よくナルトとマンセルを組み、実力もなかなかの部下である藍馬とその友人のもののようだった。

―…それにしてもアイツがそんな風に思ってたとは…気付かなかった…。

 以外の女性には何の興味を持たないナルトは、藍馬が好意を寄せていることに全く気付いていなかった。好意を寄せられるのは嬉しいことだが、自分には大切ながいる。応えるつもりは毛頭ないし、それよりもこの話を傍で聞いているであろう彼女の反応の方が気になる。暗部総隊長である自分と付き合っていることは隠しているため表立って妬いてくれることはないだろうが、それでも少しは期待してしまうのが男の性。膨らむ期待と小さな不安を押しとどめつつ、再び室内から感じるの気配に集中する。そして気配を辿ると、会話を楽しむ彼女たちのすぐ後ろのソファにの姿を確認した。顔に雑誌を乗せた状態で、ソファで横になっているようだった。
 待機所に自分たち以外の人間がいるのを知っているのかいないのか、彼女たちはきゃっきゃっと騒ぎながらカウンターテーブルで会話を続ける。

「あんた、どんだけ総隊長のこと好きなのよ」
「言い表せられないくらい!一目見た時からずっと総隊長一筋なのよ!私総隊長のことなら何でも知ってるし、総隊長の為なら死んでもいい。それくらい真剣に好きよ!」

 そんな真っ直ぐな好意を初めて向けられたナルトは、驚きのあまりビクッと体を震わせた。正直、自分が総隊長になってから数えきれないほどの好意と尊敬を受けてきた。だが、この藍馬がまさかそこまで真剣に思ってくれているとは思いもよらなかった。それと同時に今まで微動だにしていなかったの体が僅かに震えたのが見えた。そんな二人の様子に気付かず、彼女たちは更に話を進める。

「でもさー、昨日も言ったけど、総隊長って彼女いるらしいじゃん」
「そんなの絶対デマよ、デマッ!私よりも総隊長のコト知ってる女なんていないと思うし、総隊長は絶対私のモノなんだから!その辺の変な女よりもずっとずっと、私の方が彼を愛し…」
「うるさいなぁー…」
「「「?!」」」

 それまで黙って寝転がっていた兎面の小柄の忍…がいつの間にか起き上ったと思ったら、黒いオーラを出しながらずいずいと藍馬のもとへと歩いてくる。話に夢中で自分たち以外の第三者がこの待機所にいたことさえ気付かず話していた三人は、突如現れた彼女に驚いた。しかし身長も暗部としての経験も断然上であった三人は、最初こそ驚いたものの相手が後輩だと気付くと、を冷たく見下ろした。

「あら白兎、いたのね。気付かなかったわ」
「お言葉ですけど先輩。あなたのおっしゃるその『変な女』の方が、先輩よりも総隊長のことをもっとずっと愛してると思います」
「「「!!」」」

 その言葉に三人は驚きの表情を見せた…面の上からなのではっきりとは窺えないが。しかし彼女たち以上に驚いたのは他でもない、ナルト自身だった。の口から『愛してる』だなんて言葉……今まで一度も聞いたことがない。壊れそうなほど早く打つ心臓とどんどん赤くなる顔を必死に押さえて、ナルトは次の言葉を待つ。

「昨日から何なんですか、『総隊長』『総隊長』って。総隊長の彼女より先輩の方がいろいろ知ってるかのように話してますけど、先輩は一体総隊長の何を知ってるって言うんですか?」
「へぇ。じゃあ私たちよりも後輩で、総隊長とマンセルも組んだことないのあなたは、一体総隊長の何を知ってるというのかしら?」

 そんな藍馬の挑発に、ナルトは遠く離れているにも関わらずのプチッ…という音が聞こえてきた気がして顔を青くする。そう、は普段おっとりふんわりしている分、怒ると相当怖い。自分より年下であることを忘れるくらいだ。もしかしてこれはまずいんじゃないか…そう思っていると、スゥっと大きく息を吸い込む音が聞こえ、はこれでもかっ!って勢いで大声でまくしたて始めた。

「先輩は全っ然知らないでしょうけどっ!想像もつかないでしょうけどっ!総隊長は本当はバカで涙もろくて子供で意地悪で、それでいてすんごく独占欲が強いんですから!野菜は嫌いで全然食べてくれないし放っておくとラーメンばっかだし、たまに行く外食でも一楽ばっかでありえないしっ!実は怖い話とか本気で怖がって無理だし、その日は引っ付いて離れないし!それに全体的にバカなのか頭いいのかわかんないしっ!確かにあんたの方が思っている期間は長いかもだけど、私の方が全然ナル…」
「白兎っ!!」
「「「?!」」」

 突然待機所内に響いた声に驚いて振り返ると、そこには総隊長姿のナルトが立っていた。はその姿を確認すると、『何故今お前がここにいるんだ』と面の下で思いっきり不機嫌な顔をしながら先輩たちの前を通り過ぎ、ナルトの元へと歩き出す。そしてそのままグイッとナルトの腕を引っ張って絡めると、面の下の部分だけを持ち上げ、現れた柔らかな頬にキスをした。

「「「!!!!!!」」」
「いくら先輩だからって許しませんからねっ!!!」

 べーとそのまま舌を出して彼女たちに向けると、は面を戻してぐいっとナルトを引きながら待機所を出て行った。ナルトは一瞬のことで何が何だかわからず、ただただ彼女に腕を引かれて歩いていた。

********

 ぐいぐい歩いて行き、ナルトとシカマル専用の部屋につく。は勝手知ったる様子でそのまま扉を開けると、自身の面を取りフードを勢いよく脱ぎ、ソファに体ごと倒れこんだ。

「ムカツクー!むかつくむかつくむかつくー!!」

 手足をバタバタさせてが叫ぶ。部屋に入ってだいぶ冷静さを取り戻したナルトも面を取り小さくため息をつくと、そのままうつぶせ状態で固まっている彼女に話しかけた。

「お前なぁ…今ので絶対バレちまったじゃねーかよ、オレとお前が付き合ってんの」
「何でよ、バレちゃいけなかったっていうのっ!?」

 上半身だけを起こし、目をキッとさせてナルトを見る。未だに興奮状態にあるのか顔を真っ赤にさせ目を潤ませ、一目で怒っている状態だとわかる程だ。ナルトは今度は大きくはぁ、とため息をつくと彼女の頭側のスペースに座り、目の前の頭をぽんぽん撫でながら言った。

「バレちゃいけねぇってわけじゃねぇけど、そうなると総隊長として他の暗部の奴らとお前を公平に扱わなきゃいけなくなるじゃねぇか。今まではまだ早いってことでお前には回したくねぇ任務を、総隊長の権限で回してなかったりとかしてたのによ…」
「…なにそれ…」
「…色の任務とか、色の任務とか、色の任務とか……」
「!?ナルト、そんなコトしてたのっ!?」
「当たり前だろっ!誰がお前を色なんかに行かせるか!!」

 そう言うとの体をそっと起こし、少し強めに抱きしめた。

「…行かせてたまるかっての…他の野郎に指一本触れさせたくねぇよ…」
「…ナルト…」

 目の前にある柔らかな髪に指を絡めると、そのまま優しくキスを落とした。思ってる以上に彼に思われ、知らない間に守られていた…そう思うと心が締め付けられる気がして、は自分を包み込むそのぬくもりを、そっと抱きしめ返した。

「つーかお前、あいつと言いあってる時、危なく『ナルト』って呼ぶトコだっただろ」
「ごめんー…だってあの人、昨日からいかにも『自分の方がナルトのコトを知ってるんだ』『ナルトのコト好きなんだ』っていっててさ、すんごく頭に来ちゃったんだもん。私の方がいろんなナルト知ってるのにさ…好きな食べ物も嫌いな食べ物も、他にもいろいろ…」

 ぷくーっと頬を膨らまして腕の中で見上げてくる。ナルトは自分の腕の中にいるながらも見上げてくる彼女が可愛くて愛おしくて、額や瞼にキスを落とす。それがくすぐったくて、も怒り顔から柔らかな笑みに変わる。

「…にしても嬉しかったなぁ、お前が嫉妬してくれて」
「!?嫉妬なんかしてないよっ!」
「あ?あれでしてねぇってのかよ?今朝はオレの嫌いなもんばっかいきなりテーブルに並べて、かと思えば追い出して、あいつにキスまでさせてみせて」
「…ご、ごめんね?」
「ひでぇよなぁ、…あ、でも『あれ』は直接聞きたかったな…」
「『あれ』?」

――他にも何かしちゃったっけ……?

 今にもそんな声が聞こえてきそうなほど、不安そうに小首を傾げてナルトをじーと見つめる。ナルトはニヤッと笑うと、彼女の耳元で囁くように言葉を告げた。

「『変な女の方がオレのコトをもっとずっと…』…何だったっけ?」
「!!!バカッ!!」




キミのことなら、何でも一番知っていたいよ。

これまでのことも、これからのことも………。