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「ナルトは10までの数字の中で、何が一番好き?」

何の脈絡もなく、突然聞き出した
数字に好きも嫌いもあるかっての。いきなり何だってんだ…?

数字占い


 昨日まで暖かかったと思ったら、急に寒くなった昼下がり。通常任務も暗部の任務もないオレは、年上の彼女―…と久しぶりの休暇を満喫している。オレはベッドの上での膝枕でゴロゴロと巻物を読み、で横になっているオレの頭に雑誌を乗せ、ぱらぱらと見ている。各々がのんびりと休みを満喫していた。

「ねー、ナルト」
「んー?」

 オレの名を呼ぶ声と同時に、頭の上の雑誌がどかされる。それにより動かせるようになった頭をもぞもぞと動かし彼女を見上げると、彼女は目をぱちぱちさせながら先ほどの質問をしてきた。どうやら巻末にある占いページを見ているらしい。
 それにしても数字で何が好き、という今まで考えたこともない質問に、オレは眉間に皺を寄せた。

「何って言われても…考えたことねぇぞ」
「ならいい機会じゃん!今考えて!」

 今後後輩に「総隊長は何の数字が好きですか?」って聞かれるかもしれないよ!と笑顔で言葉を続ける。そんな間抜けな質問をしてくる暗部がいるもんか。さらに言えば、そんなアホな発言をする部下なんかこっちから願い下げだ―…。そう思うものの、『暗部』という裏の世界をよく知らない、太陽の良く似合う彼女の可愛い発言に、オレは小さく笑った。
 それにしても『数字で何が好きか』なんて、今まで考えたことも無い。でもこの様子じゃ言うまで放してくれそうもない。んー…しばらく考えて、オレはある数字を口にした。

「…1、かなぁ」
「1!いいね!でも何で?」
「なんでって…」

 「1」と聞いて真っ先に思い浮かぶのは、「一番」という言葉。里で一番強くなりたいし、何に関しても一番を取りたい。幼い頃からそう思い続けていたから、最もオレに身近な数字に感じた。そう説明すると、は「ナルトらしい」とくすくす笑った。そしてそっとオレの頭を撫でると、微笑みながら言う。

「子供の頃から、私の中でナルトはずっと一番だよ」

 目の前で微笑むその笑顔が愛おしくて、彼女の頭へそっと腕を伸ばして引き寄せると、触れるだけのキスをした。不意を突かれたは恥ずかしそうに顔を背けるが、それすらも愛おしい。オレはたまらなくなって起き上がると、今度は両手でしっかり彼女を抱きしめて再びその唇を味わった。

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 しばらくそのまま抱きしめたりくすぐりあったり遊んでいたが、腕の中にいるは「違う違う、続きがあるんだよ!」と再び雑誌を手にして読み始めた。

「なになに、『1が好きなあなたは、何かと目立ちたがり。そして何事にも一点集中型で、どんどん突き進むタイプです』だって。ぴったりだね!」

 顔だけ振り向いてきゃはははっ!と爆笑する彼女。ぴったりって…1って答えたヤツ全員そうなのかよ、とか10パターンしか人間いねぇのかよ、とかいろいろツッコミたくなったがここでは我慢。目の前にある柔らかな髪を撫でながら、そんな思いを飲みこんだ。

「恋愛面は『好きになった相手に一途で愛情深い人でしょう。ただ独占欲がとても強いので、相手は束縛で苦しく感じることがあるでしょう。特に相手がモテる場合、1好きさんは闘争心を燃やして絶対に手放さないでしょう』だって」
「―…当たってるな。オレはずっと一筋だし、お前を誰にも渡すつもりはねぇ」
「く、苦しい苦しい!ナルト、力強い!」

 誰にもやるもんか、と考えているうちに抱きしめる力が強くなってしまったらしい。「物理的に苦しい!」とがいうまで気付かなかった。「わりぃ…」と少しだけ力を緩めるが、彼女の柔らかな身体はまだオレの腕の中だ。

「ふぅ…まったく、ナルトは本当に私が大好きだなぁ」
「当たり前だろ!オレがお前をものにするまでどんだけ大変だ…」
「はいはいはいはい。で、1好きさんと相性の良い数字は…」

 はオレの言葉を遮り、雑誌の続きを読み始める。だがそこまで言って、じっと黙ってしまった。そして突如パタン、と雑誌を閉じてしまった。

?」

 つい先ほどまでキャッキャと騒いでいたのに突然の変化に驚いて、彼女の顔を覗きこむ。振り向いたは笑顔を浮かべていて、ただ一言「やめたっ!」と言った。

「やめたって…なんだよ、いきな…」
「どっかいこっか!」
「は?」
「お昼、一楽でも行く?」
「それはいいけど…いきなりどうしたんだよ」

 オレはの目をじっと見つめて問いかける。すると彼女は少し目を伏せると、口を尖らせて言った。

「…だって私の好きな数字、無いんだもん」
「は?」

 雑誌を取り上げ先ほど読んでいた欄である『1と相性の良い数字』を見ると、そこにあったのは『7』。どうやら彼女の思っていた数字ではなかったらしい。こんな小さなことでいじける彼女が可愛くて、頬を突きながら機嫌を窺う。

、いじけんなって」
「いじけてないもん」
「こんなんただの占いじゃねーか」
「…だって他の項目にもないんだもん」

 他の項目…?再度雑誌を見てみると、例の『相性の良い数字』の他にも『相性の合わない数字』や『サポートしてくれる数字』、『親友になれる数字』など様々な欄があった。そして彼女が言うには、そのどこの項目にもの好きな数字が無かったらしい。

「…ナルトのことこんなに好きなのにさ、どこにもないって何か淋しい」

ポツリ呟く

―…わかってんのかねぇ、こいつは。こんな小さなことで、オレはたまんなくなるのに。

 にやける顔を必死に押さえて、いじけるに声をかける。

「お前、一体何番が好きなんだよ」
「0」
「…0?」

 オレは占いの説明書きを読む。しかし選択肢には『1から10』と書いてあり、元々「0」という選択肢は無い。

「0なんかねーよ」
「へ?」
「0なんて選択肢、最初からねーよ」
「…あ、ほんとだ!」

 ないのかー、そりゃどこにもないはずだよねー!と明らかに嬉しそうな顔に戻る。年上とはいえ、やっぱりどこか抜けてる。普通最初に気付くだろ…。これだから目が離せない。オレは苦笑した。
 それにしても好きな数字が0なんて、変わってると思った。

「選択肢になきゃ載ってるわけねーだろ」
「そうだよね!そしたら私はナルトにとって、ここに載せられない位『特別』ってことで!」
「はいはい、そうだな」

 勝手に追加のルールを作り、満足したかのようにニコニコしながら言った。その笑顔が可愛くて、それは目の前にあるその柔らかな髪をわしゃわしゃ撫でた。するとキャッキャ、という笑い声が響き、笑顔の戻った彼女に安心する。

「でも何で0が好きなんだ?何も意味のない数字っぽいのに」
「だって0はこれから、何にでもなれる可能性いっぱいの数字だよ。私は『これだっ!』って固定されたくないし、それに…何となく、人間の『原点』な気がするから」

 こういう時、オレは嫌でも実感する。はオレよりも多くの経験をし、考えを持っている『年上』なんだって。何となく彼女との精神的な距離を感じた気がして、腕の中にいる彼女の温もりを手放したくなくて、きゅっと力を込める。その腕にそっと手を添えて振り向いたは、微笑みながら言った。

「それにさっ!『0』と『1』なら、ずっと一緒にいられるね!」
「は?」
「だってさ、『0』の次は必ず『1』が来るもん。0(私)がずっと1(ナルト)の前に立って、守ってあげるからね」

 オレの不安を汲み取ったのだろうか…ふんわり微笑みながら言う彼女。ずっと一緒にいるって言葉は嬉しい。だけどオレだって男だ。守ってもらうなんて勘弁。

「バーカ。何も力の無い0(お前)を、お前より大きな力のある1(オレ)が守るんだよ」


―…これからもずっと傍にいて…オレがお前を絶対に守るから…。